2009年03月23日

其れは祝福のカンタータ

ルナサが初めて認識したものは一人の男の顔だった。

登場キャラ
ルナサ メルラン リリカ レイラ 霖之助












 それはとても不思議な感覚だった。眼前に飛び込んでくるのは男性の顔。それは先程ま
で確かに見ていた光景と地続きでしかないはずなのだ。寂れてしまった自分達の屋敷の一
室で姉妹と共にいつも通りに佇んでいるだけなのに――どうしてこんなにも眩しいのだろ
う。どうしてこんなにも世界は綺麗に見えるのだろう。
 まるで光の刃が薄闇を切り裂いてしまったみたいだとルナサは思った。
「どうやら、上手くいったようだね」
 男性はルナサの顔を覗きこんで笑みを見せる。口の端をわずかに持ち上げているだけの
不器用な笑み。それがどうしてなのか、ルナサにはとても優しい微笑に思えた。
 薄暗い室内の中であって男の瞳は綺麗な金色の光を反射させ、垂れ下がる銀糸は鈍い光
沢を見せている。
 ――彼はどんな人なのだろう
 それがルナサの頭に最初思い浮かんだことだった。

                            *

 広大な屋敷の一室で一人の少女が泣いていた。まだ十にも満たない幼い少女は、誰もい
ない寂寞とした部屋の中で、声を枯らして泣いていた。
 床に座り込んだまま力なく、ただ一心に愛する姉妹を呼び続ける。
「おねえちゃん、おねえちゃんっ……」 
 しかしいくら泣こうが喚こうが、少女の嘆きを気にかける者はもう誰も残ってはいない
のだ。少女の愛する三人の姉妹はもうとっくにこの屋敷を、この街を出て行ってしまった
のだから。
 全ての姉妹はそれぞれ別々の家に引き取られていった。残ったのは彼女一人、既に廃屋
の体を成してしまっている屋敷からさえ離れられず、それでもどうすることも出来ずに泣
いているのだ。
 両親の死後、雨後の筍のように顔も知らない親類達が湧いてきた。そして彼らは姉妹達
だけではなく、何から何まで持っていってしまった。だからもうここには何も残っていな
い。そのことは少女にもわかりきっているというのに、それでもこの場所からは離れられ
なかった。
「ルナサおねえちゃん……メルランおねえちゃん……リリカおねえちゃん……」
 そんな中でたった一つだけ残ったものがあった。それはこの惨状を生み出した呪わしき
マジックアイテム。一家を離散させた悲劇の元凶。誰もが忌避して触ろうとさえしなかっ
たそれは、今少女の足元に転がっている。
 泣き疲れた少女が顔を伏せた時、涙で滲んだ視界がそれを捉えた。それは少女には正視
に堪えないはずのものであったというのに、気が付くとまるで魅入られてしまったかのよ
うに目が離せなくなっている。いつの間にか少女の腕はふらふらと伸ばされていた。揺れ
る視線は既に焦点も合わず、どこか虚空を眺めている。まるでその先に、元の暖かい家族
が見えるかのように。
 恐るべき魔力が秘められているその道具、父親が東方より持ち帰りそして災厄を撒き散
らしたオルゴールに、少女の指先が――触れた。
 薄暗い部屋に極彩色の光の奔流が溢れ出した。何が起こったのかもわからずに少女はそ
の光景を呆然と見詰めていた。触れてもいないのに巻き螺子が独りでに動き出し、きりき
りと音を立て発条を巻いていく。
「……おねえちゃん」
 思わず瞑った少女の瞳から最後の一滴の涙が零れ落ちた。その決意の元にあったのは希
望か、絶望か。幼い彼女にはそのようなことは知る由もなかった。
 少女は悲劇の象徴を胸に抱く。オルゴールは彼女の想いに共鳴するように鳴り出した。
 光はもう目蓋の裏さえも通り抜けるほどに強く激しくなり、少女は耐えるように身を丸
め、そして一つのことだけを強く願った。
 ――三人の姉妹と再び一緒に遊べますように
 彼女の願いを彩るように調べは流れる。どこまでも音程を狂わせ続けながら。
 
                            *

 レイラ・プリズムリバーが幻想郷にやってきてからどれくらいの時間が経っただろう。
彼女自身もそんなことは忘れてしまっていた。幻想郷は異邦人である彼女を歓迎してはく
れなかったが、それでも何とか生きて来れたのは"姉妹達"のおかげだった。
「ただいま。ルナサ姉さん、メルラン姉さん、リリカ姉さん」
 レイラは心寂しい屋敷へと帰り着くと、三人の姉妹に声をかけた。しかし姉妹達は返事
をしない。ただ虚ろにレイラを見返して、そしてそれぞれ楽器を構え始める。
 直ぐに騒音が辺りを覆いつくした。それは正しく騒音で、とても楽曲などとはいえたも
のではない。それでもレイラにとってはその音はとても懐かしく、聞いているだけで落ち
着く騒音だった。
 だが今日はその音を聞いてばかりはいられない。それだけの理由があったのだ。
「姉さん、今日は紹介したい人がいるの」
 レイラの言葉を理解したのか、そうでないのか。どちらとも判別は出来なかったが、三
人は音を出すのを止めた。
「彼は道具を扱う専門家で、今日はこのオルゴールを診に来てくれたのよ」
 レイラが一歩横に退くと、そこには一人の青年の姿があった。
「これは……何と言うべきなのか。幽霊……ではないようだし、騒霊とでも呼ぶのだろう
か」
 三人の姿を見て青年は感嘆の声を上げた。
「紹介します。右手から長女のルナサ姉さん、メルラン姉さん、リリカ姉さんです」
「これを……君が?」
「はい、このオルゴールを使って……」
「自鳴琴か。なるほど、それだけの力は持っているようだ」
 三姉妹は茫とした目で青年を見つめた。果たしてそれをどのように受け取ったのか。青
年は最も近くにいた少女の頭に手を置いた。
「直ぐに診てみるよ。少しだけ待っていてくれるかい」
 ルナサは声を返さない。ただ青年に焦点の合わない視線を向けるだけだ。
 そのことを気にもせず、青年は道具を広げ始める。
「……お姉ちゃん」
 その様子をレイラだけが不安そうに見守っていた。

                            *

 ルナサは生まれたときから思考が曖昧だった。だが当然のようにそのことをルナサが疑
問に思うことはなかった。出来なかったのだともいえる。
 ただ目的だけははっきりとしていた。自らを生み出したレイラ・プリズムリバー、彼女
の為に演奏をしなければならないのだ。寂しがり屋の彼女の為に、この廃屋を昔のような
喧騒に満ちた空間にしよう。
 昔とは何かともわからないまま、ただそれだけがルナサの存在意義だった。
 そのことは二人の姉妹も変わらない。毎日のように三人は騒音を立てた。レイラが喜ん
でいようといまいと三姉妹にその機微は理解出来ない。ただ、寂しがらせることのないよ
うにと、レイラが起きている間姉妹が楽器を下すことはなかった。
 そんなルナサの思考にかかっていた薄靄は唐突に断ち切られてしまっていた。
「どうやら、上手くいったようだね」
 青年は独り言ち、満足そうに頷いた。余りにも突然のことに、ルナサには目を瞬かせる
ことしか出来ない。視界の端に映っている二人の姉妹の様子も同じようで、じっと目の前
の青年に視線を送っていた。
「もう、大丈夫だ。ほら、妹さんのところへ行っておやり」
 青年のごつごつとした手がルナサの頭を撫でていた。それは生まれて初めての感触で、
くすぐったさにルナサは目を細める。先程は何も感じなかったその行為は、だが今は決し
て嫌なものには感じない。そう、感じないのだ。
 背中を押されるままにルナサはレイラの元に近寄った。待っていたのは涙と、そして熱
い抱擁だった。子供のように泣き続けるレイラに困惑しながらも、どうしてかくすぐった
いような思いがした。どうしていいのかわからずに残りの姉妹に視線を向けると、もう落
ち着いてしまったのか眠たそうに目を擦ったり、大きな欠伸をしたりしていた。
 そんなだらしない様子に呆れたルナサだったが、ふと気が付くと体を拘束していた腕が
抜け落ちていることに気が付いた。
「この道具はね、元々は違う効果を持っていたんだよ。ただ、壊れて音階がずれてしまっ
ていたんだ。それを直してやれば、この通り。元通りの力を発揮したというわけだ」
 青年はマジックアイテムの解説をしていたらしい。横で頷いているレイラの表情に理解
の色はなかったが、ルナサは彼のおかげで自分たちに自我が芽生えたことを知った。
「本当に……ありがとうございました」 
 レイラの瞳には涙が滲む。彼女の謝意を手で制し、青年は言葉を続ける。
「気にすることはないよ。確かに普通の道具屋にはこのマジックアイテムの修復は難しかっ
ただろう。しかし僕にかかればこの通り、何のことはない」
 そう自慢げに語る彼に、レイラの口元には苦笑が混じる。よく見れば青年の顔や服は煤
で薄汚れており、彼が言うほど容易い事ではなかったのだろう。床に広げられた道具は乱
雑に散らばり、寒々しい室内はまるで子供がひっくり返した玩具箱のようになっている。
 レイラは笑顔で青年の顔の汚れを拭う。ハンカチーフが行きかうたびに彼は目を細め、
ばつが悪そうに頭をかいた
 それは不思議と自然に感じる光景だった。
 レイラは嬉しそうに青年と話す。彼もまた満更でもないようで、透き通る笑みをレイラ
に返している。
 その自然な光景を見てルナサが感じたのは――
「えっ……」
 最初に感じたのは頬、そしてそれは掌にまで至る。
 この暖かさは何だろう、開いた掌には一粒の雫。握った拳で顔を擦ると、何故かそこは
濡れていた。
 ルナサの脳裏に先ほどの記憶が蘇る。生まれたばかりの自分、何もわからなかった自分。
それを優しい笑顔で見つめてくれて、頭を撫でてくれた彼の笑顔。その光景を思い出して
いる内に何故か目の前が滲み、霞んでいく。慌ててルナサは俯くと、一粒二粒と真珠の欠
片が零れて落ちた。
 もう何がなんだかわからない。初めて覚える不可解な感情に揺り動かされて、ルナサは
ただわけもわからず翻弄されることしか出来ないのだ。
 そうしているうちに二人の雰囲気に触発されたのか、二人の妹が演奏を始める。今やも
う二人が奏でる音はただの騒音ではない。陽気なトランペットが薄暗い部屋に花を咲かせ、
幻想を奏でるキーボードがどこまでも走り続ける音を手懐け騒麗な音楽へと変えていく。
 楽しげな談笑が、暖かな気持ちが、広い屋敷内に響き渡った。
 しかしそんな中で、ルナサは何故か俯いたまま動けない。楽器を手に取る事さえ出来な
いで、ぼんやりと二人の演奏を眺めていた。
 レイラは楽しそうに青年と笑いあう。それがルナサにはどうしても直視出来ない。小さ
な胸にチクリと感じる棘。身体は細波が走るように震えている。
 自身に起きているのことの正体を、最後まで彼女が理解することはなかった。

                            *

 白玉楼は今日も陽気な騒音に包まれていた。三姉妹は思う存分騒音を鳴り響かせ、陽気
な幽霊はどこまでもテンションを上げていく。
 西行寺家御用達のちんどん屋は、今日もライブを楽しんでいた。
 そんな折、ふとリリカが呟いた。
「何だかんだでここで演奏するのも長いよね――ってそもそも何で冥界へ行ったんだっけー?」
「宣戦布告……後世に、今度は負けない……」
「何のことかしらー?」
 メルランの疑問に答えず、ルナサは曲のテンポを上げていく。彼女らしからぬアドリブ
に、二人の姉妹は慌てて追随する。それはまるで自ら理解出来ない感情を覆い隠すような
ラフな演奏だった。
 それでも陽気な幽霊は喜ぶだけで、ライブはどこまでも騒がしさを増して行った。

 ライブは成功の内に終わった。既に姉妹達は幻想郷の自分たちの屋敷へと戻っている。
 ルナサの独断にメルランは抗議の声を上げたが「勝負は私の勝ちだから」と告げると、
勝手に納得したのかすごすごと引き下がって行った。
 確かに自分らしくない、そのことをルナサは自覚していた。誰よりも観客を楽しませる
ことを第一に考える彼女が、今日行ったアドリブは決してその意図に叶ったものだとは言
い切れない。ただ後から結果が付いてきただけのことだ。
 ルナサは苛立たしげに頭を掻いた。こんなのは自分らしくない。頭を冷やしたほうが良
いだろう。
「ちょっと出てくる」
 そう言って姉妹の返事も聞かぬ間に屋敷を飛び出していった。

 ルナサは当て所もなく歩いていた。もとより行く場所などないのだ。ただ俯いたまま足
の向くままに歩くだけ。
 あの時からどれだけの時間が経っただろう。短くない間を共に過ごした少女が冥界に旅
立ってから、初めて騒音を立てることの意味を知ってから――そしてあの手が自らの頭に
乗せられてから。
 今はもう思い出すことも出来なくなってしまっていた。青年の行方も今は知らない。レ
イラがいなくなってから、いつの間にか姿を見せることもなくなった。風の噂で人間の里
に彼と似たような風体の男のことを聞いたことはあった。だが近くで彼女達のライブがあっ
ても、彼が姿を見せたことは一度もない。
 ルナサは脚を止めて空を仰ぐ。いつの間にか蒼穹はその姿を覆い隠されていた。
「……やだな。気圧が下がってる」
 気を落ち着けるために演奏をすることすら出来やしない。
 幻想郷の天気は変わりやすい。灰色の雲は直ぐに雫を降らせ始めた。
 ぽつりぽつりと雨粒がルナサの頬を叩く。そうして初めて意識が外に向けられた。気が
付くとそこは見知らぬ場所、周りには雨を凌げそうな場所はない。それでも遠くに視線を
やると鬱蒼とした木々の少し手前、ぽつんと建つ小さな家が見えた。
 これ幸いとルナサは走り出し、何とか本降りになる前にその家の軒先に辿り着いた。そ
れでも少しだけ濡れてしまった前髪を指で摘むと、大きな溜息が漏れて出た。
「ついてないな」
 今日は何をやっても上手くいかない。次第に雨脚は激しさを見せ始め、今ではもう一間
先も見通せないほどの豪雨となっていた。夕立が収まるまで、ここで立ち尽くしているし
かないだろう。
 諦めて回りを見回すと、そこには雑多に物が積み上げられていた。扉に書かれていた文
字は『香霖堂』。雑貨屋か何かなのだろうかとルナサは思ったが、それにしては見たこと
のない物が多過ぎた。
 だから、ちょっとだけ興味が湧いたのだ。雨で気温が下がり始めた軒先で立ち尽くして
いるよりは、下らない雑貨でも見て回っていた方が気が紛れるかもしれない。
「……すみません、いらっしゃいますか?」
 鳴り響いたカウベルよりも小さな声でルナサは問う。店の中は外より暗く、もしかした
ら留守なのかもしれない。雑然とした店内に足を躓かせながらも、ルナサは奥へと向かっ
ていった。
 どれだけ進んでいっただろう。店の中を抜け、居間のような所へ辿り着いて漸く人影を
発見した。暗がりでよくはわからなかったが、恐らく男性、彼が店主なのかもしれない。
「あの……」
「ん? ……ああ、いらっしゃい」
 そこもまた薄暗かった。先程までは太陽が出ていたから灯りを付けていなかったのだろ
う。本を閉じる音と共に男性は立ち上がった。
「済まないがこっちは居間なんだ。商品は向こうの方に……」
「あっ」
 一瞬の稲光が店内の暗闇を取り払っていた。ルナサの目に映ったのは黄金の瞳と、白銀
の髪。どうして気が付かなかったのだろう。ルナサは呆然と男を、森近霖之助を見上げて
いた。
「どうかしたのかい?」
「えっ、あっ……。いえ……何でもないです」
 自分は何を期待したのだろう。詰まらない願望に縋ってしまったことをルナサは後悔し
た。もう世界が一新される程の間会っていなかったのだ。自分のことなど覚えているはず
もない。
 霖之助に先導されて店へと戻る。灯かりが灯された店内は、まるであの日を再現してい
るかのように、子供部屋のような散らかり方をしていた。
「今日はどんなものが入り用かな?」
「私は――」
「と、聞くまでもないか。当然、楽器関係なんだろう?」
「えっ……私のこと、知って……?」
 目を見開いたルナサに、霖之助は呆れたように苦笑を漏らした。
「おいおい、いくら僕でも君のことを忘れるわけがないだろう。久しぶりだね、ルナサ」
「…………ぁ」
 ルナサの口からはまともに声が出てこない。何を言えばいいのかもわからずに、ただ霖
之助を見つめていた。
「今は……楽器は大した物は置いていないね。外の世界の楽曲の譜面ならいくつか在庫は
あるが……どうかな?」
「あっ、はいっ。いただきます」
 思考は靄がかかったように曖昧で、物も見ないうちにルナサは答えてしまう。
「しかし本当に久しぶりだ。何度か君達三人を見かけたことはあったんだがね。どうにも
僕には騒がしすぎて近寄れなかったんだ」
「そう……ですか」
 騒音を自称する自分たちの音楽だ。静寂をこよなく愛するこの人に受け入れられるとは
思っていなかったが、面と向かっていわれるとわかっていても気は沈んだ。
「ああ。騒がしすぎる、もっと音楽は静かに聴くべきだろう。君達の客とはどうにも相性
が悪いみたいだ」
「それって……」
「ああ、そうだ。いいことを思いついた。それらのお代は結構だから、よかったらここで
演奏してくれないか? 実はずっと聞きたかった曲があったんだ」
「…………」
「君と、僕が、初めて聞いた曲。あのオルゴールから流れてきた祝福の曲を聴いてみたい。
君はソロライブはやっていないみたいだが……どうかな、この仕事受けてくれるかい?」
「……大丈夫です。やらせて下さい。私も……聴いて欲しいです」
「ありがとう」
 霖之助は笑みを浮かべ、そっとルナサの頭を撫でた。乗せられた掌はあの日と変わらな
い節くれだった職人の手だった。気を使いながらも力加減がわからないのだろう。決して
心地よいものではないはずのその感触が、どうしてか彼女の心を落ち着けた。
 一つだけ頷くとルナサはヴァイオリンを取り出した。霖之助は座席に腰を深く落ち着け
て、その瞼が閉じられるのと同時にルナサは手を動かし始める。
 ゆっくりと優しく奏でられる旋律に、霖之助は頬を緩めていた。たった一人の独奏では
物足りないのではというルナサの心配を他所に、ただ饗される音楽にその身を浸している。
まるで祝福を与えられたかのように、ただ一心に。
 きっとそれはその通りなのだろう。この曲はまるで演奏している自分自身にさえ祝福を
与えてくれるような気がするのだ。弓が弦を弾くたび暖かな気持ちが湧き上がってくる。
 今度はメルランとリリカも連れてこよう。完璧なオーケストラをこの人の前で奏でるこ
とが出来たなら――きっとあの時の胸の痛みの理由がわかる。そんな風に思え始めていた。
 果たして自分を生み出したあのオルゴールがどのような意図で作られたのかはわからな
い。それでも確信を持って言えることがある。あれは誰かを祝福するために作られたもの
なのだと。
 ――主よ、人の望みの喜びよ
 ルナサの演奏はどこまでも優しく二人の耳へと流れ込んでいった。
posted by sei at 01:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。