2009年01月20日

人の気持ちも集まれば

東方シリーズ人気投票 支援SS

登場キャラ
霖之助 霊夢 魔理沙












 正月も過ぎ冬の寒さは日に日に増していく。窓に映る外の景色は一面の銀世界で、屋根
に積もった雪の重みが家鳴りを立てさせる。目に見える季節は完全に冬のものだったが、
体は寒さに悲鳴を上げることはない。それもこれも外の世界の道具であるストーブのおか
げである。
 焔は辺りを照らし、有り得ない程の熱量を放出している。この道具さえあれば極寒の中
でも春のような陽気を感じることが出来るだろう。値段を付けるならば相当な額でも手を
上げるものは少なくないはずだ。ただ便利過ぎるが故に人を堕落させてしまう魔性をも兼
ね備えている。それ故敢えて僕はストーブを非売品としているのだ。これも全て客のこと
を考えてのことである。
 そんな便利な道具にもただ一つ困ったことがある。その暖かさを求めて招かれざる客が、
いや客ですらない奴らが冬の間ひっきりなしに訪れるのである。
 例に漏れることなく今日も朝から二人の少女が居間に居座っていた。

「意外だな、君が人の目を気にするなんてね」
 僕の言葉に目の前の紅白は嫌そうに顔を歪ませた。
「別に気にしているわけじゃないわよ。ただ妖怪神社って言われるのもねえ」
 それが気にしていると言うことなのだが、本人は気付いていないのだろう。それでもお
茶を飲んでいる霊夢の表情はどこか浮かないものである。
 初めは何気ない世間話だったのだが、いつの間にか霊夢の愚痴へと変わっていた。
 前にも神社の信仰について相談に乗ったことがあった。その時に一つ信仰を集める方法
を教えてあげたのだが、結局それは未だ実行に移されていない。確かに急に信仰する神を
変えることに抵抗があるのはわかるが……と、よく考えたら霊夢は博麗神社に祀られてい
る神様は知らなかった気もする。結局はどうでもいいただの愚痴なのかもしれない。
「霊夢に信仰を集めさせようとしても無理だぜ。こんなお気楽巫女じゃあな」
 見も蓋もないことを言うのはお気楽な魔法使いである。真面目に話している僕と霊夢を
遠巻きに眺めながらも――寒さに弱い彼女はストーブから離れられないのだろう――悪態
を吐くことは忘れない。
「ちょっと、それはどういう意味よ」
「そのまんまだぜ」
 霊夢と魔理沙の視線が交錯する。一触即発、かと思いきや二人は直ぐに視線を外した。
暖を求めて店を訪れたのだ。わざわざ外に出て寒い思いをすることもない、とでも思い直
したのかもしれない。
「霖之助さん、他に何か信仰心を集める方法はないかしら?」
「うーん、新しい神様を勧請するのが一番手っ取り早いんだけれどね。後は来歴を売りに
して歴史に興味のある人たちを惹きつけるか、若しくは名のある神器持ってきてを奉って
みるだとか、そんなところかな」
 祭りを開くというのは悪くないアイディアなのだが、どう考えても人より妖怪の方が集
まるだろうと前に結論付けられている。
「どれも難しそうね。蔵を漁れば博麗神社の歴史くらいならわかりそうだけど」
「前言撤回。神社の巫女である君が知らないくらいだから、里の人間が興味を持つことも
ないだろう」
 霊夢に睨まれるが、僕は苦笑を返してやった。自分の不勉強が悪いのだから文句は言え
ないはずだ。
「神社の人気がないんだったら、霊夢自身が人気を集めればいいんじゃないか?」
「何言ってるのよ、魔理沙」
 霊夢は呆れ顔だったが、僕は思わず膝を打っていた。
「いや、それは悪くない考えかもしれない」
 僕の言葉に魔理沙は放言したままの格好で馬鹿みたいに口を開いていた。
「……自分で言っておいて何だが、本気で言っているのか?」
「ああ、上手くすれば信仰を取り戻すことも出来るかもしれないよ」
 詰まるところ妖怪を虐めている変な巫女という印象を、人間の里を守る立派な巫女へと
イメージを転換させてやればいいのだ。里には人々の敬意を集める獣人もいる。彼女に出
来て巫女に出来ない道理はあるまい。
「ああ……そういうことか。だがそれも無理だと思うがな」
「何よ、魔理沙は私の活躍を知っているでしょ? いっつも私の後を追っかけてるんだか
ら」
「別に後を追っかけているんじゃない。私も異変解決の専門家だからな。同業他社から仕
事を奪うために体当たりで営業をしているだけだぜ」
 単に変なことに首を突っ込むことが好きなだけだろう。若しくは暇つぶしか。
「いきなり信仰を得ることを考えずにまず神社に興味を持って貰うことから始めるのも一
つの手だと思ってやってみたらどうかな」
 歴史を振り返れば巫女そのものが発揮する霊威により人々の崇敬を集めていた時代もあ
る。そして巫女の力とは即ち祀っている神霊の力であり、巫女への信仰は神への信仰へと
変わるのだ。
 確かに霊夢は不真面目で修行もせずにお酒を飲んでばっかりいるが、幻想郷の為に最も
働いている内の一人でもある。現に今まで起きた異変の大半は彼女が解決したものだし、
効果は疑わしいが流行り病を鎮めるために祟り神の信仰を集めて回っていたこともある。
もしかすると単におかしなことに首を突っ込みたがる性分なだけなのかもしれないが――
それは外から見ればわからないだろう。
 霊夢の武勇伝を正しく幻想郷に広めることが出来たならば、きっと里の人間も彼女のこ
とを見直すに違いない。そうすれば博麗神社も昔の姿を取り戻すことだろう。
 ただそれには一つ大きな問題があるのだが――
「凄く嘘っぽいんだよなあ。霊夢の話は」
 ストーブを離れ近寄って来た魔理沙の言葉に僕も頷く。ふと魔理沙の顔を見るとうっす
らと額に汗が浮かんでいた。何もそこまでストーブに引っ付かなくてもいいだろう。
「確かに霊夢の話は聞いてもよくわからないからね。それにいつの間にか異変が解決して
いることが多く、人目に触れることもないみたいだ。そして異変を起こすのはいつも胡散
臭い妖怪ばかりで、そしてそいつらは宴会と称して神社に集まっている。ここまで来ると
生半な方法では霊夢の武勇伝を信じさせることは難しいと言わざるを得ないな」
 客観的に意見を言うならば"嘘っぽい"という他ないのだ。人々に信じさせる方法は流石
に直ぐには思いつきそうにない。
「霖之助さんもあの天狗と同じことを言うのね。全部本当のことなのに」
 落ち込んだ様子もなく霊夢は湯飲みを傾ける。散々言われてきたことなので慣れている
のかもしれない。
「しかしだな。手前味噌だが解決した異変の数じゃあ私も霊夢に負けていないぜ。だった
ら私にも信仰を集めれるってことじゃないか?」
 飲んだくれの巫女よりは人気もあるかもしれないしな、と魔理沙は呟く。
「魔理沙に信仰心なんてあったのかい?」
 僕の脳裏には怪しげなローブを纏った魔理沙が茸型の偶像を崇めている姿が浮かんでい
た。返ってきた「勿論、ないぜ」という返答に僕は何故かほっとした。
「ちょっと、聞き捨てならないわね。どうすれば私より魔理沙の方が人気がなんて思える
のよ。あんたも飲んだくれの胡散臭い何でも屋でしょ?」
「確かに私は飲んだくれだが幻想郷じゃ二番目だぜ」
「誰が一番だって言うのよ!」
「二人とも落ち着いて……」
 割り込もうとした僕に二組の鬼のような形相が振り返った。
『人気のない道具屋は黙ってて!!』
 ずれ出した話は留まることなく、いつの間にか口角泡を飛ばす言い合いが始まっていた。
何気に僕も酷いことを言われたような気がする。
 最終的に二人は決闘で人気の有無を決めると店を出て行った。直ぐに窓の外で弾幕が飛
び交い始め、雪に反射して目に優しくない光が店内に入り込んで来る。僕はその光景に背
を向けると、朝から開きかけで放って置かれたいた本に手を伸ばしていた。

                            *

 霊夢と魔理沙が帰った後――勝敗の行方は語るまでもないだろう――僕は今日の出来事
を書き記していた。二人の争いは詰まらないものだが、人気というものに囚われる気持ち
は、実は僕にもわからなくはないものなのだ。
 神々の中には元は人間だった者がそれこそ星の数ほどいる。彼らがどうして神になるこ
とが出来たのかというとそれも一重に人気の賜物だと言える。斯様に人の思いとは集うに
ことによって力を発揮するものなのである。それは毀誉褒貶様々な思いが集ったものであ
り、中には泥棒から神様になった者さえいる。そう考えると魔理沙の考えも強ち見当外れ
だとはいえないのだ――胡散臭い新興宗教を設立することだけは止めて欲しいものだが。
 今僕は本を書いているのだがある意味ではこれも人気を集める為にしているのだと言え
るだろう。この僕の書き留めた本は幻想郷の歴史書となる。歴史が生まれるということは、
即ち外の世界に近付くということである。その時、この停滞した幻想郷も新たな一歩を踏
み出すだろう。そうなれば本は飛ぶように売れ、香霖堂の人気も上がるというものだ。そ
して人々の人気が僕に集まった暁には、道具屋の神様、何て呼び名が使われることもある
かもしれない。
 未だ発表の目処は立っていないのだが、それでも霊夢が信仰を集める日よりは早いだろ
うと僕は楽観している。
posted by sei at 02:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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