2008年09月13日

白狼天狗と勝負の方程式

霖之助は天狗の友人との出会いを回想する

登場キャラ
霖之助 椛
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 天狗という妖怪は碌なものではない。酒を飲ませれば笊のようで、人をからかうことし
か考えていない。新聞を書かせればまるで為にならない雑多な情報の集合体になる。号外
を出すたびに人の家の窓を割っていくし、とにかく天狗には関わらないほうが良いという
のが僕の持論だ。
 そんな僕だったが、友人と呼べる天狗の知り合いがただ一人だけいた。彼女と出会った
のはもう干支が二周りはするくらい前のことになる。
 今日は久しぶりにその友人が僕を訪ねてくるという。彼女をもてなすために僕は店を早
めに閉めることにした。
 将棋の盤を前にしながら本を読んでいると昔を思い出す。そう、まだ霧雨家で修行をし
ていた時代、本当にひょんなことから彼女と僕は知り合ったのだ。
 昔を懐かしんでいるとカウベルの鳴る音が聞こえた。
「やあいらっしゃい、待っていたよ」
 僕は久しぶりに会った友人に微笑みかけた。

                            *

 帳簿を付け終え、店頭に並べてある道具の整理と掃除が終わると時刻は深夜を回ろうと
するくらいになっていた。僕はまだ起きていた親父さんに挨拶をして霧雨家を辞すると、
里外れにある我が家――僕の目で見ても家なのか廃屋なのかの峻別が難しい――へと帰っ
て行った。
 最初は僕の能力があれば楽に出来ると思っていた道具屋の修行だったが、思いの外大変
であることを実感させられている。
 道具を愛するという点だけでは誰にも引けを取るつもりはなかったが、商売というもの
は情熱だけでは成り立ってくれない。大量の仕入れや仕入先との関係、顧客管理から資金
の調達まで、このような苦労の存在など全く念頭になかったことだ。実際に道具屋へ飛び
込んでみて初めて思い知らされることは多く、それはとても勉強になっている。
 しかし生活用品全般が主な取り扱い商品である霧雨家では僕の能力が有効に活用出来る
場面は決して多いとはいえない。道具に囲まれて生きられることは楽しくはあったが、霧
雨家を出て一人になると、本当にこれでいいのかと悩んでしまうことがあった。
 そんな僕の気分転換、それはやはり道具と戯れることだった。家に帰り着いた僕は荷物
を放り出して二階へと向かった。元々は富農の家だったらしいこの家は二階建てで、僕一
人が住むには十分すぎるほどの部屋数がある。人が住まなくなってからそれほど時間が経っ
ていないため生活するだけなら困ることは無い。それでも階段を踏み抜かないように慎重
に体重を掛けながら二階へと上る。
 道具類は全て一階に置き、僕の生活の場は二階が主体となっている。理由はというと単
純な話で、二階に道具を置いておくと床が抜けるんじゃないかと心配になるからだ。必然
的に一階は足の踏み場もない状態になり、歩くたびに軋む二階で生活するしかないのであ
る。
 だがそんな部屋の中、たった一つだけ二階に置いてある道具があった。
 生活には必要はなく、他の道具と比べても一際異彩を放つその道具。家の外に向かって
突き出された筒状の道具に足が生えて床に固定されている。
 名を望遠鏡という。構造を簡単に説明すると筒の両端に取り付けられた凹凸のレンズに
よって遠くのものをまるで手に取るように見ることが出来る道具――のはずである。しか
しこの望遠鏡は僕が知っているものとは少し違うようで、詳しい仕組みはよくわかってい
ない。
幻想郷が外の世界と隔絶される以前、一度だけ似たようなものは手に入れたことがあるの
だが、その時は千里鏡などと呼ばれていた。だとするならば、この望遠鏡は万里鏡とでも
呼ばれるべきだろう。精度がそれだけ違うということなのだが、恐ろしいことにこの望遠
鏡を使えば天体さえもつぶさに観察することが出来てしまうのだ。
 僕は正直、この道具に魅了されていた。霧雨家での修行を終えると、寝食を忘れて望遠
鏡にかぶりついているのだ。まるで出歯亀のようなものだとも思ったが、部屋にいながら
にして町行く人々を眺めることが出来るのは愉快なものだった。
 さて、今日はどのようなものが見えるのやら。
 僕は望遠鏡をまだ見ぬ方角へと向けると倍率を調整しながらそこに映し出される世界に
心を奪われるのだった。

                            *

 最初は部屋から望遠鏡を向けるだけで満足だったのだが、次第にもっと色々なものを見
てみたいと思い始めた僕は、休日になると望遠鏡を持って様々な場所へ出かけていった。
仕事が終わると毎日、望遠鏡を手に持ち色々な場所を巡り見て回る。
 ある日は三途の川の向こう、またとある日は無縁塚。更には博麗神社から外の世界の方
角へと、様々な場所から遠くを眺めた。
 もうこれ以上眺めるところは無い、というくらい様々な場所へと出かけていった。流石
に疲れを感じ始めた僕は、今日は初心に戻って部屋から外を眺めることにした。
 里外れの、しかも小高い場所にあるこの家からは妖怪の山が良く見える。そういえば妖
怪の山に望遠鏡を向けたことはない。山など見ても木々が見えるだけだと端から決め付け
ていたからだ。
 何となく望遠鏡を向けた先に見えたものは――やはり鬱蒼と茂る木々だけでしかなかっ
た。少しだけ落胆して望遠鏡の先を別の方向へと向けようとしたとき、ふと小さく映る人
影のようなものを見つけた。
 妖怪の山の頂点近くにある一際高い杉の木の、更にその天辺の枝にそれは座っていた。
 倍率を調整し焦点を合わせると、それが幼い白狼天狗であることがわかる。ぼけっと座っ
て景色でも眺めているのかと思ったら、一定時間ごとにあちらこちらと見る方角を変え、
誰かに手信号で何かを伝えている。恐らくは天狗の見張り番なのだろう。
 僕は天狗に知り合いもおらず、山に独自の社会を築き上げている彼らの生態をよくは知
らない。そう考えるとこれは良い機会なのかもしれない。僕は彼女の様子を眺めることに
した。
 半刻ばかりそうして少女を眺めていただろうか。気が付くと彼女が此方をじっと見つめ
ているような気がした。そういえば先ほどから見る方角を変えていない。まるで彼女は何
か不思議がっているかのように首を傾げ、こちらを凝視している。
 初めは僕と彼女の直線状に何か変なものでも見つけたのだろうと考えていたが、どうに
も僕自身を見つめられているような気がしてならない。
 駄目で元々、という気分で僕は彼女に手を振ってみることにした。
 すると天狗の少女は驚いたようにしきりに辺りを見回した後、自分の顔を指差そうとし
て――思わずバランスを崩してしまったのだろう。後ろに仰け反りながら枝から落ちていっ
た。
「お、おいっ!」
 僕は慌てて彼女に駆け寄ろうとして、そしてそれが遥か何十里も先で起きた出来事であ
ることを思い出した。僕も二階から落ちそうになりながら、何とか体勢を立て直すと望遠
鏡を彼女が落ちた先へと向けた。
 人間だったなら確実に死を迎えている程の高さから落ちた少女、しかし流石は天狗だと
いうことなのだろう。痛みに耐えかねるように頭を抱えながら転げまわってはいたが、そ
れだけの元気があるのなら大事はないのだろう。
 安堵の息を付くと、思わず笑みを浮かべてしまった。すると少女は此方がその様子を見
ていることに気が付いたように頬を染め、あらぬ方向を向いてさも平気だといわんばかり
に立ち上がる。服に付いた土を払うと、まるで逃げるかのように飛んでいってしまった。
 空を飛べるのなら落ちることもなかったろうに。それを思うとまた口元が緩んでしまう。
少し悪いことをしたとも思ったが、中々面白いものが見れたものだ。
 名も知らぬ天狗の少女に心中でお礼を言うと、僕は望遠鏡を片付け始める。
 そしてずっと同じ体勢で固まってしまった体をほぐすと、食事の用意をするために一階
へと降りて行った。

                            *

 それからというものの、僕は暇さえあれば妖怪の山へと望遠鏡を向けるようになった。
場所も毎回同じ、山の頂点に生える一本杉のそのまた天辺。いつものように見張り番に
ついている白狼天狗の少女を眺めるのが楽しくなっていたのだ。
 初めは疎ましそうにそっぽを向いていた少女だったが、僕が諦めないことを悟ると向こ
うからコミュニケーションを図ってきた。
 何事かを叫んでいるように口をぱくぱくとさせたり、身振り手振りでどうにかこうにか
意思を伝えようと必死だった。当然、僕の耳は人間と大して変わらず彼女の声が聞こえる
訳もなかったし、奇妙な踊りのようなジェスチャーでは意思が疎通出来るはずもなかった。
といっても、彼女の言いたかったであろうことは初めからわかっていた。恐らくは「覗き
見するのを止めろ」とでもいいたいのだろう。しかし久しぶりに見つけた娯楽を僕が安易
に手放すはずも無く、わからない振りをしていただけなのである。
 最終的に辿りついた方法は筆談だった。安くはない紙を使って少女は僕に抗議する。
 彼女の胸元に掲げられた紙へと焦点を合わせると、このようなことが書かれていた。
 ――こっちを見るのを止めてくれませんか?
 当然僕の返答は、否、だ。
 ――何を言っているのかわからないな。僕はただ妖怪の山を眺めているだけだよ
 僕の掲げた紙を見た少女は顔を真っ赤にして乱暴に筆を操る。
 ――私の目は千里先まで見通せます。そんな嘘だってお見通しです
 怒りによって乱れた文字を眺めると思わず顔を歪めてしまった。本当に彼女は千里眼の
持ち主のようで、同時に彼女も怒りに顔を歪めていた。馬鹿にしたのだと思ったのだろう。
 ――君が毎日そこで好きなところを眺めるように、僕にも好きなところを眺める権利が
あると思うんだけれど
 ――私にだって覗き見されない権利があると思います
 ――覗き見とは人聞きの悪い。精々寝顔を見るくらいでしかないのに
 天狗の少女は思わず立ち上がって、そしてまた枝から落ちそうになった。それを見て僕
はまた笑い、彼女は怒って逃げていってしまった。

 そんな日が何日か続いた後、彼女は面白いことを書いた紙を掲げた。
 思わず目を疑ってしまったその文面だったが、何度読んでも同じようにしか見えない。
それは大きく乱雑な字で「果たし状」とだけ書かれていた。
 果たし状を送らずに手に掲げているという滑稽さにまた噴出しそうになってしまったが、
何とか堪えると彼女に返事を書いた。
 ――どういうことだい?
 ――勝負をしましょう。私が勝ったらもう覗き見を止めると誓ってください
 ――僕が勝ったら?
 ――有り得ないことですが、何でも言うことを聞いてあげます
 ――勝負の内容は?
 彼女は筆と紙を置くと、すぐ隣に置いてあった将棋の盤を高く掲げた。少女の瞳は決意
に燃えており、本気で勝負をしようということがわかった。
 天狗は暇を潰すために河童を相手に大将棋を嗜んでいると聞いたことはあるが、今回は
本将棋のようだ。確かに木の枝に座ってやるなら余り大きな盤では辛いだろう。
 余程将棋に自信があるのか、単なる思いつきなのか。どちらなのかはわからなかったが、
面白いことには変わりない。僕もまた将棋の盤と駒を用意すると手早く返事をしたためた。
 ――受けて立つよ
 ――それでは
 彼女が駒を振って先手を決めると、世にも珍しい手紙将棋が始まった。

 少女は顔を真っ赤に染めて苦悶の声を上げているようだ。
 それもそのはず、彼女の王将は追い詰められどこにも逃げ場がなくなってしまったのだ。
王手こそまだだったが、どこへ逃げても数手先で彼女の負けが確定することは間違いない。
 ――ありません
 王手を決めるまでもなく、少女はがくりと項垂れて小さく萎びた文字を僕に掲げた。
 最初から負けるとは露とも思っていなかった僕は、彼女の様子を感慨もなく見つめるだ
けだ。
 そのまま俯いていた彼女だったが、何かを決意したかのように一つ頷くと、
 ――何でも好きなことを言ってください
 と書かれた紙を掲げて僕を睨みつけてきた。
 態度と言葉が違うんじゃないか、などと思いつつも自分が悪いということはわかってい
る。少々からかい過ぎたかなとも思ったが、このまま彼女との関係を終わらせてしまうの
は少し寂しい気もした。
 ――だったら僕の行動に文句を言わないことだね。僕はこれからも山の観察を続けるこ
とにするよ
 少女は悔しそうに歯噛みする。情けをかけられたとでも思ったのかもしれない。
 ――ただし
 不思議そうな顔をする少女にもう一枚の紙を突きつける。
 ――日に一度だけまた勝負を受けよう。君が勝ったら僕も君の言うことを聞こうじゃな
いか
 少女は何度も目を瞬かせて何度も文字を追う。そしてその文面を理解したのか、拳を握
り締めると僕にびしりと指を突きつけて枝から飛び降りて行った。
 そんな彼女の様子がまた可笑しくて、僕は笑みを作るのだった。

 それからは毎日のように対局をした。動物的な勘と勝負強さを持っていた少女だったが、
基本をしっかりと覚えていないので僕が負けることはなかった。
 ――もう一局お願いします
 ――勝負は一日一度と決めたはずだよ
 ――賭けは関係ないです。もう一局!
 初めの内は単純に僕が疎ましかったのだろうが、いつの間にか勝負に勝てないことが悔
しくなってしまったのだろう。いつの間にか手段と目的が入れ替わり、対局そのものが目
的へと変化していった。
 ――ありません
 目に見えるほど沈んだ様子で少女は敗北を宣言する。流石にこれ以上虐めるのは可哀想
か。
 ――君はもう少し基本を覚えた方が良さそうだ
 ――基本、ですか?
 ――さっきから言おうと思っていたんだが、君の矢倉は間違っているんだ
 ――ええ!?
 ――金を一つしか使っていないから……
 彼女の間違いを指摘すると悔しそうに顔を歪めつつ、必死に覚書を取り始める。
 こういう生真面目な所が彼女の面白いところだ。一つのことに集中すると他のことが見
えなくなるのだろう。勝負相手に将棋を教わっている現状にも疑問を持っていないようだ。
 何度も頷きながら囲いの基本を書き記していく少女を眺めながら僕は考える。
 勝負に夢中になり過ぎて仕事をサボってしまっている事実を何時告げたら彼女はどんな
顔をするのだろう、と。

                            *

 望遠鏡を通して将棋仲間になった少女、犬走椛を迎えると机を挟んで座った。
 毎日のように将棋を差していた僕達は、気が付くと友人になっていた。まあ十年も将棋
を差していれば、直截顔を合わせなくとも何となくお互いのことがわかるようになっても
おかしくはないだろう。
 十年の間に基本を覚えた彼女は、もう手加減をして戦える相手ではなくなった。そうし
て力量が対等になった頃、彼女は警備隊に配属されてしまった。
 持ち場が滝の裏側になった彼女は杉の木に現れることはなくなり、その頃僕も自分の店
を持とうという頃で、望遠鏡を通した関係は自然消滅してしまった。
 それでも僕に一度も勝てなかったことが相当心残りだったのだろう。年に何度かふらり
と店を訪れては対局をする。今ではそういう仲になっていた。
「む、相変わらず居飛車ですか」
「そういう君も相変わらずの振り飛車党のようだね」
 駒を進めると椛は顔を歪める。
「その急戦好きはどうかと思いますよ。もっと将棋を楽しまなくては」
「そういう君こそ将棋を暇つぶしの道具と捕らえすぎなんじゃないかな。河童相手ならそ
れでもいいが、もっと色々な戦法を試してみるのも面白いと思うが」
 言葉と共に駒も応酬する。一進一退の攻防が続き、半刻ほど苛烈な争いは続いた。
 そして最終的に勝利の女神が微笑んだのは僕の方だった。
「……ありません」
 がくりと顔を俯かせると、いつものように悔しそうに呟いた。
「そうか、これで僕の五千五百六十二勝目だね。さて、今日は何をしてもらおうかな」
 僕の言葉に体を震わす椛。昔交わした「何でも言うことを聞く」という約束は未だに有
効なのだ。遠く離れていては出来ないことも、こうして直截顔を合わせるとなると話は別
だ。
「何度も言ってますけど、あんまり無茶なことを言われても……」
 釘をさしてくる少女に思わず笑ってしまい、彼女はまた顔を赤くして怒った。
「そうだね、今日の夕飯の支度でもしてもらおうかな。君の作る料理は美味いからな」
「……はあっ」
 このやりとりも慣れっこになってしまった。彼女も何を言われるのかはわかっていたの
だろう。溜息一つ、用意していたエプロンを手早く付け、足早に台所へと向かおうとする。
 僕はその背中に言葉をかけてやることにした。
「いい加減に勝たないと、君は僕の専属家政婦になってしまうよ。まだ千個以上お願いは
プールされたままなんだから」
「なっ、何を言うんですか!? わ、私には天狗の警備の仕事があるし……。そ、そんな
け、けっ……んなんて……そんなことはまだ早いです!!」
「……? よくわからないが、君が僕に勝てばいいだけの話だよ。毎回勝ってばかりとい
うのも退屈なものだからね」
「ふ、ふんっ……」
 椛は顔を紅潮させると、そっぽを向いて部屋を出て行った。
 そんな彼女を見て僕はまた相好を崩す。相変わらずからかい甲斐のある少女だ。
 さて、夕飯の準備が出来るまでまだ時間がある。僕は彼女が来るまで読んでいた本を取
り出すと、栞を抜き取り文字を追い始めた。

 実のところ、僕が彼女に勝ち続けているのには理由がある。
 はっきり言ってしまえば彼女は僕なんか足元に及ばない程将棋の才能があると思う。一
局毎に成長していく彼女にはいつも肝を潰しているし、実際のところ僕が無敗でいられて
いることには運の要素が少なくない。
 そしてそれ以上に大きな要素が今僕が読んでいる本、外の世界の棋譜の存在である。
 彼女は未だに振り飛車は受けの手だと思っているようだが、今では攻めの手としての振
り飛車が外の世界では流行しているらしい。他にも様々な手が考え出されており、その定
跡や新戦法を僕はこうして勉強することが出来ている。それに引き換え椛はといえば、仲
間や河童との対局による経験と、僕が時々教える以外に知識を求める場が存在しない。
 つまり、才能のない僕が彼女に勝てていることは偏に知識量の差でしかないのだ。
 妖怪は知識を残さない。何故なら自らが死ぬことに対する実感がない以上、他人を助け
ることは自分の首を絞めることに他ならないのだ。当然、将棋の定跡なども残っているは
ずはない。恐らく指し手としては外の世界の人間以上の妖怪などはごろごろいるのだろう
が、その知識が他の妖怪へ還元されることはないのである
 椛も指し手としての才能は相当なものであるのだが、僕程度の指し手であっても人類の
叡智の結晶を足してしまえばほんのわずかだけ彼女を上回ることが出来るのだ。
 生真面目な彼女は僕のずるに気付くことはなく、一本調子に対局を続けている。
 だが最近は僕の知識量の増加と椛の成長の度合いが拮抗しつつある。このままでは遠く
ない日、僕が黒星を付ける日も訪れるだろう。そう都合よく最新の棋譜を手に入れられる
訳でもないのだから。
 負けること自体は吝かではない。それからの対局は今にも増して面白いものになるのだ
ろう。
 しかしそうすることで彼女との関係が変わってしまう、そんな確信が不思議とあった。
 いざとなったら隙間妖怪にでもお願いして外の世界の棋譜を手に入れるべきなのかもし
れない。
「出来ましたよ」
 気が付くと良い香りが辺りを漂っていた。器を並べようと近付いてくる椛に見えない位
置に本を隠すと、僕は配膳を手伝うべく席を立つのだった。










●後書き
18スレ604さんのプロットを元に書かせて頂きました。
posted by sei at 01:57| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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