2008年09月13日

秋霖の終わりに

不注意で楼観剣を曲げてしまった妖夢。そんな彼女に幽々子は香霖堂へと向かわせる。

登場キャラ
妖夢 霖之助 幽々子
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 夏の暑さも鳴りを潜めて久しく、枝葉が次第に狂いだしそろそろ庭師としての仕事が忙
しくなり始める季節となった。
 妖夢は今日も慌しく白玉楼を走り回っていたが、今は仕事ではなくもっと大きな問題が
発生してしまったのだ。
「幽々子さまっ! 幽々子さまっ!」
「何よもう、うるさいわねえ」
 勢いづけて開け放した障子が甲高い音を立てる。その向こうには妖夢の主、西行寺幽々
子が嫌そうに顔を歪めていた。
 妖夢はそのことを気にもせずに幽々子に詰め寄って行く。
「どうしましょう幽々子さま、楼観剣が……」
「別にどうにもなって……あららら」
 差し出された刀は一瞥したところ何の変化もないように見える。しかし注意して見れば
ほんのわずかに刀身が歪んでいることがわかるだろう。幽々子もそのことにすぐに気が付
いたようで、
「これじゃあ鞘にも納まらないでしょうねえ」
「はい……先ほど試したけど無理でした……」
 幻想郷へお使いへ行った帰りのこと、ちょっかいをかけてきた妖怪を追い払った時から
違和感はあったのだ。だがそれを無理矢理鞘に押し込めてしまい、先ほど抜いた時にはも
う修復不可能なほどになってしまっていた。
「どうしてこんな風になったの?」
「ええ、あのそれが……気が付いたらこうなっていたというか……」
 そんなことを馬鹿正直に幽々子に言うことも出来ず、曖昧に誤魔化すしかない。それを
追求されることを覚悟していた妖夢だったが、
「そう」
 と小さく呟くだけに終わった。
「どうしましょう……?」
「折れるは悪刀、曲がるは良刀と言うしねえ。良かったじゃない、悪刀じゃなくって」
「幽々子さまー……これ直るんでしょうか?」
 幽々子の軽口に返す言葉も無く、妖夢は不安げに呟くことしか出来ない。
「楼観剣を鍛えた刀工なら直せるんでしょうけど……」
「けど、なんなんですか?」
「とっくの昔に死んじゃってるのよねえ」
「駄目じゃないですか!」
「もう成仏して輪廻の環に戻って行ってるでしょうし」
「うう、どうすればいいんでしょう……」
 幽々子にわからなければ妖夢にわかるはずもない。
 床に膝を付いて途方に暮れてしまった妖夢に、
「そうね、香霖堂へ行ってみたらどうかしら?」
「……香霖堂の店主なら直せるんですか?」
 見上げる妖夢に「どうかしらね」と幽々子は曖昧に返す。しかしそれが最後の希望だと
いうのなら、行かないわけにもいかない。
 藁をも縋る思い、という形容に相応しく暗い面持ちのまま押っ取り刀で妖夢は白玉楼を
発った。

                            *

「ごめんくださーい!」
 夕暮れ前に香霖堂へと辿りついた妖夢が大声で呼ぶと、煩わしそうに奥から店主が出て
きた。
「おや、君はこの前の半人……じゃなくて妖夢だったかな?」
「ええ、その節はお世話になりまして……実は今日は仕事の依頼に伺ったのですけど」
 それを聞くや否や、店主である森近霖之助は顔色を変える。
「立ち話もなんだからとりあえず上がりなさい」
「は、はい。お邪魔します」
 奥に通されて椅子に座ると、直ぐにお茶が用意された。仕事の内容も聞かないで歓迎さ
れるとは、余程暇だということなのかもしれない。
「それでどんな仕事を依頼したいのかな?」
「実は、この刀を修復して欲しいのですが」
 そっと楼観剣を差し出す。鞘に納まらないそれには刀身に布が巻かれている。流石に抜
き身の刀を持ったまま外を練り歩くことは出来ない。
「この刀は……」
「ほう、楼観剣というのか。幽霊十匹分の切れ味……中々面白い刀のようだね」
「し、知っているんですか!?」
「見えているだけだよ。……ああ、これは酷いな。こんな使われ方をしたのでは刀が可哀
想になるよ」
「うう、面目ないです……それで引き受けて下さるでしょうか?」
「ああ、勿論。こんな珍しい刀を触れるとなれば、断る道理もないからね」
 言いながら霖之助は器用に刀をばらしていく。目釘を抜き、柄が外され茎が顕になると
はばきが外されあっという間に刀身だけになってしまった。
 霖之助の手つきは毎日手入れをしている妖夢よりも確かで、これなら彼に任せてもいい
かもしれない。
 霖之助は刀身を立て反りを眺め、地肌がどうとか刃文がどうとか妖夢にもよくわからな
いことを嬉しそうに語る。それに愛想笑いを返しながらどうやって長話を切り上げようか
と思い悩み始めた頃だった。
「――済まないが、この依頼は受けることは出来ない」
「……え? あ、あの」
 気が付くと霖之助の表情が一変していた。先ほどまの楽しげな様子は今やなく、苦虫を
噛み潰したかのようになってしまっている。
 言葉を失ってしまった妖夢を気にする様子もなく、暫くの間、霖之助は茎を睨みつけて
いた。
「り、霖之助さん……?」
「…………」
 口を挟む暇を与えず楼観剣を元に戻し、刀身に布を巻きつける。探るような視線を送る
妖夢から顔を背け、霖之助は口を閉ざした。
「……私、何か気に触ることをしてしまいました? だったら謝ります。ごめんなさい、
だから――」
 顔を背けたまま霖之助は大きく息を付いた。
 妖夢の肩が大きく震える。霖之助が見せるわかりやすい苛立ちの所作、普段とは違う彼
の様子に妖夢は怯んでしまった。
 しかしそれでも引くことは出来ない。ありったけの勇気をかき集め、重い空気を無理矢
理引き裂くように妖夢は再び口を開いた。
「ごめんなさいっ! お願いですから楼観剣を直してください!」
「僕は依頼を受けることは出来ないと言ったんだ! 早く帰ってくれ!!」
「ひっ!」
 真正面から怒声を浴びた妖夢の瞳に涙が溜まる。
 怖かった。悲しかった。こんな霖之助の姿を見たのは初めてだった。
 口を開いてからしまったと思ったのか、霖之助は口を閉ざすと再びあらぬ方向に視線を
向けた。
「……失礼します」
 もうその場に留まることは出来なかった。
 楼観剣を胸に抱くと妖夢は足早に香霖堂を去った。

 白玉楼へ帰った後は幽々子に顔を合わせる事も無く妖夢は自室へと引きこもった。
 ――何がいけなかったのだろう
 横になって自らの行いを振り返っても全く心当たりがなかった。しかし、きっと自分が
何かをしてしまったに違いない。
 短い付き合いだが霖之助が"理性的な大人"であることはよくわかっていた。霊夢や魔
理沙との付き合い方や、直截会って話した事からも人となりくらいは妖夢にだってわかっ
ている。初めて会った時は酷い店主だと思ったが、幽々子に叱られてから霖之助の行動の
意味も推し量れるようになったのだ。
 だから、そんな霖之助を怒らせるほどの失礼を自分がやってしまった、そのことだけは
確信になっているのだ。
 ――きっと嫌われてしまったんだろうな
 そう思うと何故か胸に疼痛が走り、次から次へと涙が溢れていった。
 その日はずっとそうやって枕を濡らして過ごすしか出来なかった。

                            *

 次の日の朝、幽々子と顔を合わせた妖夢だったが、俯いて小さく挨拶することが精一杯
だった。
 主人に対して礼を失する行為だったが、まるで幽々子は全てを知っているかのように微
笑むだけ。逆に優しい言葉をかけられてしまう。
「妖夢、貴方凄い顔をしてるわよ。店主に手酷く当たられてしまったみたいね」
「幽々子様……違うんです、私が悪いんです。きっと……」
 悲しみがぶり返しまた顔を上げられなくなる妖夢に「やりすぎちゃったかしらね」と幽々
子は呟く。その言葉の意味もわからず妖夢は棒立ちするしかない。
 幽々子は一つ息を付くと、
「もう一度香霖堂に行って御覧なさい」
「えっ? で、でも……」
「一日経って彼も冷静なってるでしょ。きちんと話せばわかってくれるはずよ。妖夢もそ
れはわかっているはずよね?」
「は、はい。それは……」
「じゃあ決まりね。今日の仕事はいいから早く行ってきなさい」
「はい……」
 幽々子に背中を押され、白玉楼を出る妖夢。未だに足取りは重いものだったが、霖之助
に謝りたい気持ちもあった。
 逃げ出したくなる気持ちを押さえつけると、一路幻想郷へ向けて飛んで行った。

 香霖堂には直ぐに着いた。しかしそこから先へ進むことがどうしても出来ない。
 扉の前でぐるぐると回り続け、取っ手に手をかけては直ぐに離す。そんなことをもう四
半刻は繰り返していた。
 どうしよう、どうやって謝れば許してくれるだろうか。
 考えても考えてもわからない。それもそのはず、何故怒らせてしまったのかも未だにわ
かっていないのだ。謝り方など思いつくはずも無い。
 不安に胸が痛み、足の震えも止まらない。もう一度霖之助に怒声を浴びせられたら、あ
んな顔でもう二度と顔を見せるな等と言われてしまったら――そんな想像ばかりが頭の中
を駆け抜けていった。
 更に四半刻ほど経って、妖夢はとうとう諦めて帰ろうかと思い始めた。怒られた理由も
わからずに謝るなんてそっちの方が失礼だ、そんな言い訳まで考え出して自分を納得させ
た。
 そうやって香霖堂に背中を向けた瞬間、背後から扉が開かれる音がした。
「えっ?」
 肩越しに振り返ると驚いた顔の霖之助と視線が交錯する。逃げ出すことを決めたことで
治まりかけていた震えがまた妖夢の体を襲い始める。
「あ、あの私、その……」
 後退りをする妖夢に霖之助は近付き手を伸ばそうとする。妖夢の限界は直ぐに訪れた。
「ごめんなさいっ!!」
「お、おいっ!」
 霖之助と向き合う恐怖に耐え切れず妖夢は走り出した。前も見ずにただがむしゃらに両
足を酷使する。
 一瞬の浮遊感の後、ゆっくりと地面が近付いてくるのが見える。そこで初めて自分の体
が傾いていることを知った。
「――っ!」
 妖夢は固く両目を瞑って衝撃に耐えようとして――いつまで経ってもそれが来ないこと
に気が付いた。
「大丈夫かい?」
「あ……」
 霖之助に抱きかかえられるようにして転倒は未然に防がれていた。御礼を言うべきか謝
るべきか――それとも逃げ出すべきか。妖夢が次へと行動を移せない間に霖之助が口を開
いた。
「……昨日は済まなかった、怒鳴ったりして」
「え? だって私が失礼……痛っ!」
 霖之助の言葉に驚いて振り返った瞬間、足首に痛みが走った。転倒こそは避けられたも
のの捻ってしまったらしい。
「肩を貸そう。早く冷やした方が良さそうだ」
「あ、はい……すみません」
 何が何だかわからないまま、妖夢は流されてしまった。ただ霖之助が怒っていないとい
うことだけが妖夢に安心感を与えていた。

                            *

 香霖堂の縁側からは秋の風景が見えていた。付けっぱなしの風鈴が綺麗な音色を奏で、
色づき始めた枝葉の在りし日の姿を思い起こさせる。よく言えば自然な、有体に言ってし
まえば手入れのされていない庭だったが、その分季節の色が強調されている。その中で唯
一調和を崩しているのが風鈴だ。
 初めは不精で風鈴を下げているのかとも思ったが、直ぐに考えを改めた。目に見える風
景と心に浮かぶ風景、それを見比べるということは楽しくもあり、また寂しくもあった。
こうしてみるとこの光景もまた風雅なものなのかもしれない。
 どれだけの間、そうやって縁側に腰をかけていたのだろう。妖夢の足の手当てを済ませ
た後、黙したまま霖之助は隣に座っていた。
 昨日のことは自分が一方的に悪い。怒鳴ってしまって済まなかった、出来ることなら許
して欲しい。そんな台詞を妖夢が受け入れてから、霖之助は何かを悩んでいるように見え
た。
 まるで塞ぎこんでしまっているかのような霖之助を見るのは辛かったが、不思議とその
場に留まることは嫌ではなかった。妖夢は何も言わず、ただ霖之助の隣に座り続けた。
「詰まらない昔話なんだが、聞いてくれるかい?」
 ぽつりと呟いた霖之助に一つ頷く。霖之助は茜色に染まり出した空を見上げると、少し
ずつ口を開いていった。
「昔ね、どうしようもない男がいたんだ。誰からも認められる刀工でありながら、微塵も
家族を省みず我を通すことしか出来なかった妖怪の男がね。当然そんな男だったから、自
分の妻にも息子にも興味を持たず、何年も放っておいたんだ」
「それって……いえ、続けてください」
 自嘲気味に笑う霖之助に妖夢は自分が口を挟めることではないと悟った。
「馬鹿なことにね、妻も息子もそんな男のことを信じていたんだよ。きっといつか迎えに
きてくれる、自分達の大切な家族なんだってね。気付いた時には後の祭りさ。人間だった
妻は里の鼻つまみ者、村八分にされ惨めに死んでいったよ。本当に馬鹿な人だった……」
「それで、残された子はどうなったんです?」
「……さあね。きっとどこかで父親を恨みながら生きているんじゃないのかな。年甲斐も
なく向きになって、小さな女の子に八つ当たりでもしてね」
「そう、ですか……」
 沈黙が二人を包む。ただ場違いな風鈴の音だけが優しい音を立てていた。
「一つ、聞いていいかな?」
「はい」
「あの刀を鍛えた妖怪が今どこにいるのか知っているかい?」
「……幽々子様の話では死んでしまったそうです。もう顕界にも冥界にも、どこにもいな
くなってしまったと」
「そうか……」
 霖之助が何を思って聞いたのかはわからない。彼の話を理解だってしていないだろう。
それでも妖夢には項垂れて黙り込んでしまった霖之助、その様子が泣いている子供と同じ
だということくらいはわかる。
「……痛っ」
「あ、おい。まだ無茶をしたら――!」
 立ち上がった妖夢は霖之助の頭を優しく胸にかき抱いた。自分の母親がしてくれたよう
に、ただ優しくそっと頭を撫でながら。
「大丈夫ですよ。そんな顔で泣かなくてもいいんです」
「……ははっ、僕が泣いているだって? まさか……」
「いいんですよ、誰にだってそういう時があるんです」
 乾いた笑い声を上げる霖之助に呼応するように抱く力を強くする。
 もう霖之助が声を上げることは無かった。
 小さく震え出した霖之助を日が落ちるまでずっと優しくあやしていた。

「変なところを見せてしまったね」
 霖之助の言葉で妖夢は我に返る。自らの体が陰になり表情こそ見えなかったが、声色は
普段通りに戻っていた。
「えっ、あ! い、いや、その、私こそ!」
 慌てて体を離すが、痛む足は思うように動いてくれない。後方に流れていく体を霖之助
に繋ぎとめられ、直ぐに元の状態に戻ってしまった。
「そんなに慌てなくても、僕はもう少しこうしていたいんだけどね」
「な、何をいってるんですか! もう!」
 今度はゆっくりと体を引き離し、何とか縁側に腰を落ち着かせる。
 自分の今までしていたことを思い出し、頬が痛いくらいに熱を持ち始めた。
 日はとっくに沈んでおり、お互いの顔が見えないことだけが救いのように思えた。
「今更こんなことを言えたものではないが……楼観剣の修復、僕にやらせてくれないか?」
「えっ、いや、そんなことはないです。こちらこそお願いします!」
「……ありがとう」
「うぅ、お礼を言われる筋ではないですが……」
 楼観剣を霖之助に手渡すと、頬の熱が体中に伝播してしまっており、もうどうにもなら
なくなってしまっていることに気が付いた。
「……もう遅いですし、今日は帰ります」
「そうだね。一週間ほどで修復は終わると思う。それくらい取りに来てくれればいいよ」
「はい、それでは」
 足に負担をかけないように縁側から飛び上がる。そんな妖夢の背中に小さく、しかし明
朗とした声がかけられた。
「今日はありがとう、君のお蔭で少し楽になれた気がするよ」
 思わず振り向いた縁側は真っ暗で人の形さえ判別出来ない。それでも心に焦点を結んだ
像には、晴れやかな笑顔を見せる霖之助がはっきりと映っていた。

                            *

 鞘から抜き放たれた白刃は空気を切り裂く。その太刀筋には迷いは無く、その前に立ち
ふさがるものは悉く斬り捨てられるだろう。自らそんな予感を浮かばせるほどに、楼観剣
は手に馴染んでいた。
「どうかな? 我ながら良く仕上がったと思っているのだけれど」
「はい、全然違和感がないです。凄くしっくり来るというか」
「刃は粗めに研いでおいた。気に入らなければ本業の砥ぎ師に出すといい。だが君にはそ
れくらいが丁度いいとは思うけどね」
「うう、それって私の剣の扱いを婉曲に非難しているんですよね?」
 抗議はしてみるものの「あれだけ見事に曲げておいて反論できるのかい?」といわんば
かりの視線を受けては口を閉ざすしかない。
 一通り刀を手に馴染ませると、楼観剣を鞘に収めた。
「ありがとうございました! これで幽々子様にも顔を合わせられそうです」
 今思うと刀を曲げた時に怒られなかったのが不思議なくらいだ。だがその不安も霖之助
の手によって見事に修復されたことで吹き飛んでしまっていた。
「そうかい、それはよかった」
「ええ、ありがとうございました。それではまた……」
「おっと、待ちたまえ。何か忘れていないかい?」
「へ? 忘れ物、ですか?」
 妖夢は首を捻る。忘れてしまいたい恥かしい記憶は未だに脳裏に焼きついていたが、他
は何も思いつかない。
 霖之助は笑顔で妖夢の肩に両手を乗せると、
「まさか、お代を払わずに帰る気じゃないだろうね?」
「え? え? えーーーーーーーーー!!!!???」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう妖夢だったが、それを気にせず霖之助は非常な事実
を突きつける。
「刀身以外にも色々とガタがきていたからね、全てを修復するのには中々骨が折れたよ。
そうだな、おまけにおまけして修理代はこれくらいかな」
「そ、そんなお金持ってませんよ! というか今は一文も……」
「そうかい、君はお店にやってきたというのにてぶらだというのかい」
「だ、だって幽々子様が……」
「さて、今度は何をしてもらおうかな。そういえばうちの庭が荒れ放題になっていたな。
どこかに腕の良い庭師がいると助かるんだが」
「うう、しくしく。幽々子様、幻想郷は厳しいところです……」
 霖之助に引きずられるようにして妖夢は香霖堂へと連れ去られて行く。
 改めてみると中々香霖堂の庭は凄い光景だった。庭と言うかもう森の一部という方が正
しいだろう。
「この庭に手を入れるんですか? そんなことしたら調和が……」
「よくわからないな。君は何を言っているんだい?」
「え、だって風鈴」
「……ああ、そういえば夏から付けっぱなしにしていたな。確かにもう風鈴で涼を取る季
節ではないな」
 霖之助は事も無げに良いながら無造作に風鈴を取り外す。
「さあ、これで気になるものはなくなっただろう。僕はここで君の働きを見学させて貰う
としよう」
「うう……この人って、この人って」
 思わず天を仰いでしまった妖夢を尻目に霖之助は縁側で本を広げ出す。縋るような視線
を向けても優しい、しかし突き放すような笑みが返ってくるばかりだ。
 今日中に家に帰れそうにないことを悟れてしまう自分を呪いながら、妖夢は瞳を潤ませ
庭との格闘を開始するのだった。









●後書き
20スレ831さんのプロットを元に書かせていただきました。
posted by sei at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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