2008年08月25日

零から始めるジューンブライド

香霖堂に買い物に訪れる咲夜。その彼女を見ている視線があった。

登場キャラ
咲夜 霖之助 射命丸 レミリア フラン パチュリー 魔理沙
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 魔法の森の入り口にある道具屋、香霖堂。日常品から魔法の道具、果ては外の世界の道
具まで大抵の元が揃ってしまう幻想郷でも稀有な店。
 そんな店に今日も咲夜は向かっていた。
「開いているかしら?」
 暮夜に訪れるという非礼を気にすることもなく、咲夜は店に入っていく。灯かりも既に
消えていたが、いなければいないだけのこと。それに店主がいなかったためしもない。
「君は本当に人の都合を考えないね」
 店内から暗闇が取り払われると、店主が顰め面で表に出て来る。
 嫌そうな顔をしつつも、客とあらば扉を閉めることはない。客商売に向いているのかい
ないのか、よくわからない人だと咲夜は思った。
「あら、何か問題がありましたか?」
「……いや、別にないよ。それで今日は何をお探しかな?」
「ええ、今回もまたお嬢様が……あっ」
「おっと、危ないな。僕が言うことじゃないが、これだけ乱雑に物が置かれているんだ。
足元には気をつけないと」
 店主の広い胸に抱かれる。咄嗟のことに時を止める暇もなかった。
「ええ、ごめんなさい。それで、ですね……」
 店主に希望の品を告げると直ぐにそれは見つかった。
 代金を払い、店主に適当に挨拶をして紅魔館に帰る。日常の一コマとして何事もなく過
ぎ去っていくはずの一日だった。

 霖之助は疎か咲夜にさえ気付かれないような遠距離から、望遠レンズ付きのカメラで写
真を撮っていた人物がいた。
 彼女の目には二人の関係がどう見えたのか。深夜の密会、怪しい雰囲気で抱きついて、
どこか気まずげに何かを受け取って帰る女性。
「あやややや。これは大スクープの予感がします」
 射命丸文の目に映った事実は、それが真実であるかどうか確かめられることなく誌面を
飾ることになる。

                            *

 これで何度目の往復になるのだろう。流石の咲夜も疲労を覚え始めていた。
「いらっしゃい、また来たね」
「ええ、また来てしまいました」
 ホクホク顔の店主の顔もそろそろ見飽きていた。
 パチュリーが突然始めた外の世界の魔法の研究。その資料や道具の買い付けを頼まれて
いるのだが、これが遅々として進まない。実験が失敗するたびに材料を買い足して、そし
て不具合に気が付くと今度は新たな資料を求められる。魔法の知識が欠片しかない咲夜が
間に入ることで情報の伝達に齟齬が生じ、必要な資料も中々揃わない。パチュリーと霖之
助が差し向かいで必要な物を確認してくれればいいのだが、お互いに『動かない』という
二つ名を冠する程の出不精だ。天地がひっくり返ってもこの二人が会うことはないのでは
と、咲夜はそんな思いに駆られてしまう。
「これ、お願いしますね」
 今度こそはとパチュリーに書いてもらったメモを渡す。咲夜が見てもさっぱりわからな
いその紙片だったが、店主は直ぐに頷くと店の奥に引っ込んでいった。
 早く帰りたい、というのが咲夜の正直な思いだった。パチュリーに付き合っている所為
で紅魔館の家事が滞ってしまっている。
 妖精メイドが役に立てばもっと楽が出来るのだけれど、と有り得ない夢想に囚われなが
ら店主の帰りを姿勢よく待っているのだった。

 そんな二人の動向を写真に取り続ける少女が一人。一里先の木の天辺に居を構えてこの
数日間ずっと張っていたのだった。
「やはり私の目に間違いはありませんでした。二人の関係は黒です!」
 明日の朝刊の見出しを考えながら天狗は空を疾く駆ける。手に持った写真機には数十枚
の『証拠写真』が収められていた。

                            *

 どうも最近は自分を見る目が妙だ。
 余り勘が鋭い方ではない咲夜でもその変化には流石に気が付く。
 研究が捗らず、ずっと不機嫌な顔をしていたパチュリーが今日に限って何故か上機嫌な
のだ。そしてそっと咲夜の肩を叩き、
「私は応援するわ。咲夜、頑張りなさい」
 と訳のわからないことを言う。
 小悪魔は目が合うたびにいやらしい笑顔を向け、役立たずの妖精メイド達は遠巻きに咲
夜を眺めながら黄色い声を上げてははしゃいでいる。
 何もかもが思い通りに進まない。パチュリーのお使いは日に増して増えていくし、妖精
メイドや小悪魔は働かない。咲夜の仕事ばかりが増えていく。
 思わず溜息を付いた瞬間、
「悩んでいるみたいね」
「お、お嬢様。すいません、私としたことがつい……」
 完全で瀟洒なメイド。溜息を付く時でさえ時間を止めていた咲夜にとっては、レミリア
に見られたのは大失態だった。
 気まぐれなお嬢様が何を言いだすやら、そんな不安が頭を擡げていたが、
「いいのよ。寧ろ大いに悩むべきことだわ。初めは反対しようかと思っていたけれど、珍
しくパチェも肩入れしているみたいだし、咲夜が自分で運命を切り開こうというならしょ
うがないわよね」
「はぁ……」
 何を言っているのかさっぱり理解できない。咲夜に出来るのは生返事を返すことだけだ。
 それをレミリアはどう受け取ったのか。さも年長者を気取るように人差し指を立て熱く
語り始める。と言っても咲夜を見上げるようにしている時点で威厳の欠片もないのだが。
「いい? こういう時は行動あるのみよ。そうね……紅茶がそろそろなくなりそうだった
わ。今から香霖堂に行って買ってきて頂戴」
「茶葉なら別に香霖堂でなくとも手に入りますが……」
 付け加えるならば咲夜が把握している限りでは全ての種類の紅茶がまだ数週間分は残っ
ているはずだった。
「咲夜、主人の好意は素直に受け取るものよ? いいから行ってきなさい」
 レミリアの意図するところが何であるのか全く見当がつかなかったが、主人の命である
なら是非もない。今日も香霖堂と紅魔館を往復することになるようだ。

 紅魔館を出て上空を一人飛ぶ。周辺に人の気配は全くなかったが、それでも大きな溜息
を付く直前に咲夜は時を止めるのだった。

                            *

 もうこの店も見慣れてしまったな。店先に着いて最初に思うことはそんなことだった。
 何故か開け放された扉をくぐり店内に入っていく。
「いらっしゃいますか?」
 いつもなら直ぐに出てくるはずの店主、それが今日に限って全く反応がない。
 不審に思って居間まで歩を進める。留守であるならそれでいい。代金だけ置いて品物を
物色すればいいのだから。
 だがどうも様子がおかしい。人の気配はすれど、反応がない。
「……うう違うんだ、霊夢……魔理沙……やめてくれ……」
「あら、大丈夫ですか?」
 その答えは直ぐにわかることになった。
 香霖堂の店主、森近霖之助。彼は居間で襤褸雑巾に見紛うばかりに粉飾されて倒れ臥し
ていたのだ。軽く頬を叩いてみるが全く気が付く様子はない。
 辺りを見回しても特に枕になるようなものはない。しょうがなく咲夜は自らの膝の上に
霖之助の頭を乗せると彼が目を覚ますまで待つことにした。

                            *

 数刻後、目を覚ました霖之助が最初に口にした言葉を咲夜は理解できなかった。
「何故かはしらないが……どうやら僕たちはずっと前から付き合っていたらしい」
「はぁ……」
 どうにも今日は誰もが訳のわからないことしか口にしない。
 そんな習慣が日本にあったのかしら。それとも海外のお祭りか何かかしら、と咲夜が頭
を悩ませた始めた時、霖之助は一枚の紙を懐から取り出した。
「どうやら君はまだ何も知らないらしいね。それは幸せなことなのかそれとも……」
 意味深長な台詞と共に押付けられた灰色にくすんだ紙。それには大きく『文々。新聞』
と書かれていた。
「この新聞紙がどうか……」
 咲夜が冷静でいられたのはそこまでだった。
 一面を飾る写真とそのキャプションそれに気が付いてしまったからにはもう先ほどまで
の自分には戻れなかった。
 紙面に踊るその姿、誰がどう見てもその二人は咲夜と霖之助に他ならない。
『紅魔館のメイドと香霖堂の店主、ついに婚約か!』
 抱き合っている二人の表情は光源の関係でまるで何か含みを持っているかのようなもの
になってしまっている。
 何がどうなっているのかはさっぱりわからなかったが、とんでもない事態に巻き込まれ
てしまったことだけは把握できた。
 紙面に組まれた特集記事は全て咲夜と霖之助の関係を邪推するものだった。
『紅魔館の住人たちに聞いた二人の恋愛の軌跡』
 その特集ではパチュリーや小悪魔、妖精メイドたちによるインタビューが紙面を飾る。
『紅魔館の悪魔公認、全ては定められた運命だった!』
 レミリアと射命丸の対談は見開きだった。
 脳が全く働かない。こんな時はどうすればよかったのだろうか。
 時を止めればいい、いつも通りの答えに辿り着くまでに咲夜の意識は手放されていた。

                            *

 目覚めは鳥の囀りによるものだった。
 見慣れない天井が視界に入り、慌てて体を起こす。辺りを見回すと、次に目に入ったも
のは自分の隣に座ったまま寝入っている霖之助の姿だった。
 魘されている彼の手には例の新聞が握られている。
 ――夢じゃなかった
「……ん? ああ、起きたのかい。気分はどうかな?」
「余り良いとは言えませんね」
 微笑んだつもりだったが、頬の筋肉は硬直して上手く動いたかどうか。
「昨夜は軽い発熱もあったみたいだ。こんなことになってしまってショックなのはわかる。
だがお互いに気をしっかり持たないとね」
 起き上がろうとした咲夜を霖之助が押し留める。直ぐに朝食を作るからそのまま待って
いると良い、そう言って台所へと姿を消した。
 その後姿をぽけっと見送ってしまった咲夜だったが、寝惚けた頭が回転し始めると急に
気恥ずかしくなって来る。
 布団は霖之助のものを占拠してしまっているのだろう。慣れない異性の体臭に包まれて
いることを自覚する。それに周りには自分を看病したであろう跡が残っていた。額から落
ちた濡れタオルを洗面器に戻す。それだけで昨夜の霖之助が自分にしたであろう行為がま
るで見てきたかのように連想されてしまう。
 誰かに奉仕することは慣れていたが、その逆の経験は、ない。
 一つ、心の臓が高く鳴った。
 頭を振るう。どうもまだ本調子ではないようだ。
 体を横たえると、疲労が溜まっていることがよくわかった。泥のように重い体はまだ起
き上がることが出来ないと伝えてくる。
 彼が朝食を作り終えるまでどれくらいだろうか。
 いや、そんなことは関係ない。私の時間は無限にあるのだから。
 時を止め、咲夜は眠りに付く。目が覚めたときにはこの胡乱な想いが霧散していること
を願いながら。

                            *

「おや、先程より随分と顔色がよくなったみたいだ」
「ええ、おかげさまで。看病をしていただいたおかげだと思います」
 客観時間で数分後、主観時間で半日後に帰ってきた霖之助に今度は笑みを向けることが
出来た。
「その様子なら座って食べた方が良さそうだね。一緒に朝食にしようか」
 既に身嗜みも完全に整えられている。本当はまだ悪いはずの顔色も白磁の肌にうっすら
と乗せられた化粧が完全に覆い隠していた。

 テーブルに広げられた料理は男性的なそれを想像していた咲夜に軽い衝撃を与える。質
素ながらも完璧な和食。今の咲夜の体調を考えて作られたことが伝わってくる。
 それは口に運んだ後も変わりはなかった。
 人の作った食事を口にするのは何時ぶりだろうか。
 食事が生きていくうえでの作業になってしまっていた咲夜は、思わずこんな朝食も悪く
はないと考えてしまった。
「どうかな、口に合えばいいんだけれど」
 どこかはにかんだ様子の霖之助に、暖かい気持ちが広がっていくのを感じた。
「ええ、とても美味しいですよ。今度作り方を教えてくださいね」
 いつも通りの営業スマイルを返したつもりだったが、何故か面映い気持ちが勝ってしま
い上手く笑えなかった。
 それでも霖之助は安心したかのように胸をなでおろしていた。

                   *

 食事の後、咲夜は直ぐに香霖堂を辞した。どこか後ろ髪を引かれる気持ちがないではな
かったが、新聞の件を問い詰める方が先だ。
 紅魔館に帰り着いたときに最初に出合わせる顔、それは当然門番の顔になる。
 美鈴を問い詰めようとした矢先、彼女の表情がおかしいことに気が付いた。
「あの、霖之助さ……いえ、香霖堂の店主と、その、あの……」
 話す言葉も全く要領を得ない。その癖表情だけはこの世の終わりのような深刻な顔をし
ているのだ。
 これでは話にならないと美鈴を置いて館に入る。
 次に顔を合わせたのは小悪魔だった。相変わらずのいやらしい笑みを浮かべながら、
「ゆうべはおたのしみでしたね」
 開口一番の台詞がこれだ。四桁のナイフを小悪魔の周りに張り巡らせて先を急ぐ。段々
と遅くなる歩みが如実に咲夜の不安を表していた。
 大図書館の扉を開ける。普段は静寂に包まれている図書館が今日に限って耳障りな泣き
声を孕んでいた。
「うっ、うええええ……香霖が、香霖があ……」
 その涙声の主はというと、何故かパチュリーにすがり付いて泣いていた。その黒白が普
段は決して見せない顔を覗き見てしまったという軽い罪悪感が咲夜の視線を逸らさせる。
 彼女の視線の向かった先、パチュリーの表情を見て咲夜はそっと図書館の扉を閉じた。
『計画通り』
 そうとしか表現の仕様のない悪辣な笑顔を浮かべたパチュリー、その表情を見なかった
ことにするだけの優しさはまだ咲夜にも残っていた。

 残る事情の聞けそうな人物はレミリアだけ。お嬢様の私室へ急ぐ咲夜には最早躊躇する
だけの余裕もなく、彼女らしからぬ駆け足に近い速さで廊下を駆け抜けていった。
「お嬢様っ」
 最後の気力を振り絞って、扉を開ける音だけは立てなかったが、逸った口はもう止めら
れなかった。
 だが咲夜が詰問に辿り着く前に、一人の少女が胸に飛び込んでくる。
「咲夜は結婚しても紅魔館を出て行かないよね? ね、ね?」
「フランドール様……」
 彼女らしからぬ萎れた様子に咲夜はどうしていいのかわからなくなる。
「咲夜ぁ……」
 両目一杯に真珠のような涙を湛えたその顔を見てしまっては咲夜に出来る返答など一つ
しかなくなってしまう。
「心配なさらないで下さい、お嬢様。もちろん、私は結婚した後でも紅魔館を出て行った
りしませんわ」
「ほんと!?」
「ええ、お嬢様から離れることはありませんよ」 
 一転、春が来たかのように顔を綻ばせるフラン。ほっと心中で溜息を付いたのも束の間、
直ぐに自分のミスに気が付いた。
「いえ、そもそも結婚など私は……」
「じゃあ、店主にはこの館で働いて貰うしかないわね。そうね……執事でもしてもらおう
かしら。やっぱり咲夜と一緒に働ける職場がいいわよね」
 目配せをしてくるレミリアに何とか誤解を解いてもらおうと一歩詰め寄るが、
「咲夜っ、結婚式はいつにするの?」
 後ろからフランに引っ張られてレミリアまでの後一歩が届かない。
「結婚式は盛大にしないといけないわね」
「あの、その、私は……」
「あら、咲夜は結婚式の希望があるそうよ」
「えー、私は絶対ドレスが似合うと思うわ。純白のドレスに咲夜の銀髪は映えるに決まっ
てるもの!」
「それは私も同意見だわ。でもお色直しは何回やってもいいでしょう?」
 既に誰も咲夜の話を聞こうとはしていない。何を言っても馬耳東風。
 完全に事態が咲夜のコントロールを離れたことを実感させるだけでしかなかった。

                            *

 新緑の薫る季節。紅魔館の敷地の一角に設けられたアンチクロスの教会。目が覚めるよ
うな真紅のバージンロードを咲夜は今歩いている。
 華美すぎず、だが手の込んだ純白のドレスは隣を歩く男が苦心して仕立てたものだとレ
ミリアが誉めていたことを思い出した。
 燕尾服姿の男に目をやると、自分と同じように緊張した面持ちだった。
「どうしてこんなことになってしまったのかな」
「どうしてこんなことになってしまったんでしょうね」
 直後に出た台詞も同じだったが、笑う気分にはなれなかった。
 まるでモーセのように人の海を割って歩いていく。
 純粋に咲夜と霖之助を祝福する人たちに混じり、幾人かは暗い顔を隠そうともしていな
い。その中で特に目立っていた魔理沙はパチュリーに抱かれて明後日の方向を向いていた。
 一歩、また一歩と歩みを進める。その行為が間違っているということは咲夜にもわかっ
ているはずだった。
 どうして――?
 そんな疑問は何度だった投げかけたのだ。未だに返ってこないその疑問に辿り着かぬま
ま、足はレミリアの坐す壇まで辿り着いてしまった。
 神父に扮したレミリアの口上を上の空のまま聞き流しながら、もう一度霖之助の顔を盗
み見る。彼も咲夜を神妙な面持ちで見つめていた。
「今なら、多分引き返せますよ?」
「今なら、多分引き返せるんじゃないかな?」
 小声で囁く言葉は再び見事な唱和となる。
 どうして貴方はこの道を引き返そうとしないのか、互いに見つめる視線が互いの気持ち
を物語っていた。
 一体自分は何に縛られているというのだろう。嫌なら嫌だと言えば良い。ここまで御膳
立てされたからと言って、望まれない結婚をするくらいなら何もかもぶち壊しにしてしま
えばいいに決まっている。
 こんなところでさえ自分はお嬢様に従ってしまうのか。それともこれこそがお嬢様に定
められた運命だと言うのだろうか。
 既に指輪は交換され、誓いの宣誓まで済ましてしまった。
「それでは誓いのキスを!」
 レミリアの甲高い声が教会に響き渡り、一同の視線を一身に集める。
 新婦に出来ることは後は目を瞑り、体の前で両手を組むことだけ。
 そっと肩に手が置かれた。
 この期に及んでも咲夜の頭を巡るのは誰かが止めてくれないかという他人任せの浅はか
な願いだった。
 心臓が高鳴って、少しづつ霖之助の気配が近付いてくるのがわかる。
 距離が寸にまで近付いた時、そこで何故か霖之助の動きが止まった。
「――――」
 耳元で囁かれた言葉、それは彼女が最も忌避し、そして最も望んでいた言葉だった。
 何故自分はこの婚姻にこれほど頑なになっていたのか。そのことに気が付いたのは疑問
が氷解したのと同時だった。
 小さく頷くとふわりと優しい感触が唇にそっと触れる。
『二人ともおめでとー!!』
 静寂を切り裂いてクラッカーとそれに負けない祝辞が教会内を飛び回った。
 目を見開くと顔を赤らめた霖之助が目に飛び込んだ。きっと自分も同じような顔をして
いることだろう。
 彼がこの結婚に抱いていた想い、それは自分と同じものだったのだとわかったから。
 だから――零から始めてみるのもいいのかもしれない。
 ブーケを投げると周りの少女達が殺到する。薫風に乗ったかのように遠くまで飛んだブー
ケに視線が集まった中、咲夜は生まれて初めて周りの目を盗むという行為をした。
 その悪戯な行動に霖之助はいつか見せたあのくすぐったそうな笑顔を見せる。それが無
性に嬉しかった。
 穏やかな風が紅く染まった頬を冷ましてくれるかのように二人の間を吹き抜けていった。









●後書き
19スレ516さんのプロットを元に書かせていただきました。
相変わらずあのスレには猛者がそろっているようで、フラグを折る程度の能力しかない自分にはとうてい書けないような話がごろごろ転がっています。
プロットがあるのもそうですが、やはり自分に出来ないはずのことをやるのは面白く、三時間程度で書けた覚えがあります。
516さん、ありがとうございました。
posted by sei at 00:46| Comment(4) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
心温まるお話でした。
霖之助も咲夜も幸せになってもらいたいと願います。
・・・ところで、射名丸は女性週刊誌の記者そのものですねw
まあ、結果としてハッピーエンドだったので良かったです。
Posted by かいと at 2008年08月25日 14:19
なんだか、清々しい気持ちになるお話でした。最後に、ふたりが自分達の気持ちに気づくあたりが特に。咲霖は、他のカップリングとはまた違った魅力がありますね。実際、このふたりがくっついたら、かなり強い信頼関係で結ばれそうな気がします。
Posted by メガ-ミッション at 2008年08月26日 01:38
>かいとさん
他のキャラだとおちゃらかしてしまいがちですが、真面目な咲夜ならこんな風かなと思いながら書いていました。
射命丸は使いやすさからついつい扱いが典型的なブン屋になってしまいます。
最後に射命丸に仲人になってもらえれば綺麗に纏まったかな、などと今更思ったりも。

>メガ-ミッションさん
そうですね、おしどり夫婦な様子が目に浮かびます。
結婚後の咲夜の変貌なんかも書いてみたら面白いかもしれません。
Posted by sei at 2008年08月29日 00:37
これが某スレで有名な咲霖の威力…!
ごっつぁんです。いいもん読みました
Posted by ばななや at 2010年01月21日 02:10
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