2008年08月25日

ユダルようにアツいナツのヒ

幻想郷を酷暑が襲う。

登場キャラ
霖之助 霊夢 魔理沙 レミリア 咲夜 射命丸 他
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「僕と一緒に暮らしてくれないか?」
 霖之助は膝を付いてレミリアの腕を取る。少女を見上げる視線は真剣そのものだ。
「おおーっと! ここで森近氏のプロポーズだー! 吸血鬼のお嬢様はどう返すのかー!?」
 射命丸の実況が響き渡る。
 レミリアは尊大にに霖之助を見下ろしたまま、しかし薄く微笑んで口を開いた。
「ええ、構わないわ。貴方が望むままに……」
「おおおおおお! カップル成立です! こうしちゃいられない、号外を出さないと!」
 文字通り疾風となって香霖堂を去る射命丸。
 その横には引きつった笑みのまま立ち尽くす魔理沙と霊夢の姿があった。

                            *

 その年幻想郷を襲った猛暑は尋常のものではなかった。気温は優に40℃を越え未だ上昇
中なのだ。外を出歩く人影は当然の如く存在していない。
 こんな時期に出歩くのは自分くらいのものだろう。
 鬱蒼と茂る森の枝葉さえも潜り抜け熱線は少女の体を焼き続ける。太陽の存在を疎まし
思いながら魔理沙は香霖堂への道を歩いていた。
 勿論彼女とて好き好んで出歩いているわけではない。今までは比較的気温が安定してい
る魔法の森に住んでいることに加え、ミニ八卦炉の送風機能を活用して暑気払いすること
で割りと快適な生活を送っていた。
 しかし余りに酷使しすぎたのか、ある日送風が止まったきり動かなくなってしまったの
だ。いくら魔法の森が他よりは涼しいとはいえこの暑さだ。流石に我慢が出来ずに霖之助
に修理してもらおうと家を出たのだ。
 下手に急ぐと暑さで倒れる恐れがあるが、ゆっくり歩くのもそれはそれで危険だ。倒れ
ないようにゆっくりと、しかし熱線にやられない程度には急いで歩く。
 気が遠くなるほどの時間を経て漸く香霖堂に辿り着く。
「邪魔するぜ」
 いつものように乱暴に扉を開ける気力も無い。静かに開かれた扉から店内に入り込む。
 居間にまで辿り着くとそこに霖之助はいた。いつも通りの姿で、とは言い難かったが。
「や……あ、魔理沙か……何の、用だ、い……」
 窓は全て開け放たれ、風を遮るような大きな道具は全て仕舞われている。霖之助自身は
というと水を張った桶に両足を突っ込んだまま机に突っ伏していた。息も絶え絶えといっ
た様子で、片手に持っている団扇で自分を扇ぐ気力もないらしい。
「……生きてるか、香霖」
 ふと窓に吊るされている風鈴を見ると全く揺れていない。魔法の森の入り口という中途
半端な立地にある唯一の利点が風通しが良いことなのだが、今は完全に凪いでしまってい
る。これでは窓を開けていても日差しが差し込むばかりだ。
「仕事を頼みたいんだがな。ミニ八卦炉を直して欲しいんだ。風が出なくなってな」
 霖之助から団扇を取り上げて自分を扇いでみる。温風がかき回されるだけで全く涼しく
ならなかった。
「請け負っても良いが、一つ、条件が……」
「ああ、何でもいいぜ。この暑さから逃れられる為ならな」
「幽霊でも氷精でも……何でもいいから涼むものを持ってきてくれ……」
「ああー? 幽霊なあ……そいつはちょっと難しいぜ」
 この猛暑に入り、例年以上に幽霊狩りが進むことを懸念した西行寺幽々子は地上の霊を
一時的に冥界へ非難させた。そうでなければ今頃魔理沙だって幽霊で涼んでいるはずだっ
たのだ。
 残された数少ないパイは有力者の元に分配され他に回されることは殆どない。今現在、
幽霊の末端価格は恐ろしいまでに跳ね上がっているのだ。
 魔理沙自身はミニ八卦炉があったので問題はなかったが、今回の措置は各方面から大変
な非難を喚起した。当然、それらの矛先は全て妖夢に向かうことになったのだが。
「な、何でも良いから……涼むもの、頼む……」
 そう言ったきり霖之助は動かなくなった。

                            *

 さて、どうしたものか。涼む為にミニ八卦炉を直してもらおうと思ったのに涼むものを
持ってこいと来たものだ。
 今から幽霊を手に入れるのは容易ではないだろう。神社から強奪するか紅魔館から強奪
するか永遠亭から強奪するかしかないのだ。どのパターンも後々と面倒なことになりそう
だ。普段ならどうということはないのだが、今現在の幽霊の価値を考えると人死にが出て
も不思議ではない。
 面倒になって神社に行って寝ようか、などとも思ったが背に腹は変えられない。
 一先ずは霧の湖に向かうことにした。

 そこにチルノはいた。いたのだが、
「あたいったらさいきょーねあたいったらさいきょーねあたいったらさいきょーね……」
 湖に土左衛門のように浮きながら虚ろな顔で同じ台詞を繰り返している。魔理沙が近づ
いても何ら反応を示さず、棒切れでつついてもそれは変わらなかった。
「こりゃ駄目だな」
 湖に浸かっていても溶けそうなのに、今の香霖堂に置いてきたら確実に蒸発してしまう
だろう。
「あたいったらさいきょがぼぼぼぼ」
 沈みかけたチルノを湖岸に繋ぐと魔理沙は別の場所へと向かうのだった。

 結局のところ、一日中走り回っても涼を取れるものは何も見つからなかった。
「ふはー、生き返るぜー。この一杯の為に生きてるってもんだ」
 今は神社で夕涼みをしている。霊夢の手で瓶詰めにされた幽霊を抱きながら麦酒での一
杯、人生の妙味が凝縮された瞬間である。この気持ちよさを知ってしまえばもう外を出歩
く気にはならなかった。夜の帳が降りた今でさえ、神社の外はサウナも同然の暑さなのだ
から。
「それで霖之助さんの方はどうするのよ?」
 対面に座る霊夢も瓶詰め幽霊を膝に抱いてちびちびと飲んでいる。
「と言ってもなあ。もうどうしようもないぜ。後の当てと言えば妖夢くらいだしな」
「あいつが幽霊を貸してくれるとは思えないけど」
「そうじゃなくてあいつ本人だ。幽霊部分は体温も低いだろうからな」
 言ってから妖夢の半身を抱きしめて涼を取る霖之助の姿が頭に浮かんだ。曰く言いがた
いほど妙な画面に少し気分が悪くなる。
 霊夢も同じ想像をしたのか苦い表情を浮かべていた。
「それはどうかと思うわ」
「同感だな」
「もういっそのこと霖之助さんを神社に連れてこればいいのよ。あんなところに引きこもっ
てたら夏が終わる前に干乾びてそうだし」
「もう他に手段もなさそうだしな。明日にでも迎えに行ってやるか」
 話が纏まると後は飲むだけだ。
 幽霊で冷やした麦酒を呷りながら二人は快適な夜を過ごすのだった。

                            *

 実際のところ魔理沙は事態を楽観視しすぎていたのだ。
 霖之助の精神が極限状態にあったことを見抜けなかった。一度でもあの日に彼と目を合
わせることあったなら、その狂気に澱み始めた濁った瞳を正視していたならば、この後に
起きる狂騒を阻止出来たはずなのだ。
 だが無情にも時は過ぎていく。地獄の釜の中、一人の男の狂気を沸々と滾らせながら。

                            *

 照りつける日差しに汗を流しながら紅白の巫女は香霖堂へ向かっていた。
 この暑さだと空を飛ぶのも危険だ。長時間日差しにさらされることになり、日射病など
で少しでも意識を失おうものなら大怪我間違い無しだ。
 面倒でも何でも地上を歩くしかない。
「全くなーにが、迎えに行ってやるか、よ」
 朝起きると魔理沙の姿は影も形もなかった。残されたのは「すまん」と書かれた紙切れ
が一枚。
 安易に請け負った分顔が合わせ辛いのだろうが、人に余計な仕事を押付ける何てとんで
もない奴だ。
 自分も魔理沙一人に行かせようと考えていたことを棚に上げて霊夢は怒っていた。怒る
と余計に暑くなるのだが、暑い所為で余計に怒れてくる。
 悪循環に気を遠のかせながらも、何とか意識を保って香霖堂まで辿り着いた。
「霖之助さーん? 居るんでしょー?」
 返事を待たず勝手に上がりこむ。いつものことだ。
「霖之助さん?」
 居間に顔を覗かせてみるが、そこに目当ての姿はなかった。暑さに耐えかねてどこかに
避暑に出かけたのだろうか。それとも本当に溶けてしまったのか。
「全く、ここまで来たのに無駄足なんて――っ!?」
 徒為な夢想に囚われていた霊夢は背後の影に気が付かなかった。
 厳つい手によって体が引っ張られ、その場に釘付けにされる。熱い体温が背中に広がり、
耳元に吐息が吹き込まれた。
「おはよう、霊夢……」
「ななな、何してるのよっ!」
 有体に言って霊夢は背後から抱き竦められているのだ。この場にいる男性と言えば霖之
助しかおらず、わずかに香る体臭と耳元で囁かれる声がそれを証明していた。
 突然のことにどう対応して良いかわからなくなる。振りほどこうと暴れてみるが、男性
の力で押さえつけられると霊夢の力ではどうにもならなかった。
「ちょっと……いい加減にしてっ! 朝っぱらから何考えてるのよ!」
 となると説得する他無い。頬にさした紅を気にしないように努めながら、霊夢は叫ぶ。
これで駄目ならもう本気で調伏するしかない。
 そう覚悟したのだが、
「もう少しだけ……このままでいさせてくれ……」
「……なによ、もう……」
 余りにも真剣な口振りに暴れる意志が挫けてしまう。
 早朝の香霖堂で抱き合う二人。蒸し暑いはずなのに、不思議と背中に感じる体温は不快
に思えなかった。
 やけに心臓の音が大きく聞こえる。それが自分のものなのか、霖之助のものなのか判別
がつかなかった。
 どれだけの間そうしていたのだろう。霊夢を縛る腕から力が抜けていった。
 霊夢は腕を振り解くと霖之助に向き直る。
「馬鹿っ!」
 罵声と共に平手が霖之助の頬を張り、乾いた音が店内に響いた。
 呆然としたままの霖之助を置いて霊夢は香霖堂を出て行った。
 幾許も走らぬ内に、直ぐに体力が尽きて木陰に座り込む。しかしどれだけの間休んでも
胸の動悸が治まることはなかった。

 幽霊瓶を抱きながらごろごろと転がる。朝のことが気になって今日は一日何も手が付か
なかった。お茶を飲んで煎餅を食べてお茶を飲んで、それだけで既に日が沈んでしまって
いた。
「何にやつきながら転げまわってるんだ? 気持悪いぞ霊夢」
「だっ……誰がにやついているのよ!」
「まあいいが……香霖はどうしたんだ?」
「知らないわよっ! 元気そうだったから放って置けばいいんじゃないの!」
「……元気だって? 昨日は今にも死にそうな顔をしていたが……明日にでも顔を見に行っ
てみるか」
「好きにしなさいよ」
 魔理沙を無視して再びごろごろを再会する霊夢。今日は寝れないかもしれない。
 霊夢は未だに頭から離れない情景を何度も反芻し、悶絶するのだった。

                            *

 次の日の魔理沙は言葉の通り朝から香霖堂に向かったらしい。
 自分なりに昨日のことに収拾を付けた霊夢はいつも通りに過ごしていた。お茶を飲んで
煎餅を食べる合間に掃除をする。いつも通りに掃除は進まなかった。
「はあっ、こう暑いと食欲も湧かないわね。お昼は素麺にでもしようかしら」
 箒を放り出して部屋に戻ると、魔理沙が帰って来ていることに気が付いた。
 何故か昨日の自分のようにごろごろと床を転がりながら時折、
「うふ、うふ、うふふふふ……ふふふ……」
 と魔理沙らしからぬ声が漏れ出ていた。
「何やってるのよ魔理沙。気持悪いわよ」
 昨日の自分を棚に上げた台詞を吐く。
「な、なんでもないぜ!」
 弾かれたように立ち上がると魔理沙はそっぽを口笛を吹き始める。掠れて音は出ていな
かった。
「何よ、怪しいわね」
「何だよ、昨日のお前ほど怪しくないぜ」
 にらみ合う二人。
「やるか?」
「いいわよ。やろうじゃないの」
 場所を境内に移し、再びにらみ合いを始める。
 今まさに弾幕ごっこが始まろうとした瞬間、丁度二人の間に落ちてくる一枚の紙があった。
「号外、号外だよー!」
 見上げると遥か上空を射命丸が飛んでいくところだった。
 間を外された二人は緊張を解き、ばら撒かれた新聞を拾い上げる。
「な、なによこれはー!?」
「なんなんだこれは!?」
 二人の少女の絶叫が青空に響き渡った。

                            *

『香霖堂店主の奇行! 人生の伴侶の決め手は抱き心地なのか!?』
 文々。新聞の号外の一面、鈴仙を抱きしめる霖之助の写真についている見出しだ。後ろ
の方には何故か列が出来ている。まるでガラスの靴を履こうと並んでいるかのように。
「霖之助さんっ!?」
「香霖!?」
 扉をぶち破らんばかりの勢いで開けた二人が見た光景。それはまるでハーレムのように
女性陣に囲まれた霖之助の姿だった。
「むきゅー」
 じたばたと暴れるパチュリーを無理矢理後ろから抱きすくめている様子は犯罪行為一歩
手前にしかみえない。
「何やってるのよ!!」
 霊夢がお払い棒を手に霖之助を背後からばしばしと叩く。手が緩んだのか弾かれたよう
にパチュリーは逃げ、咲夜の背中に隠れてしまう。
「痛いじゃないか、霊夢。いきなり何をするんだい?」
「何をするんだい? じゃないわよ! それに、あんたたちも! 揃いも揃ってなにやっ
てるのよ!」
 霖之助の周りにいた女性陣、レミリアを筆頭にフラン、咲夜、パチュリー、美鈴の顔を
順番に睨み付ける。端の方には椅子に座って黙々と何かを書いている射命丸の姿もあった。
「何ってイベントよ、イベント。最近事件もないし退屈だったからね。こんな詰まらない
ことだったとしても乗っかるしかないでしょう?」
「この暑さで他の妖怪も鳴りを潜めてしまってますからね。霊夢が神社で宴会でもやって
くれたらお嬢様の無聊も慰められるのでしょうけど」 
 平然と言ってのけるレミリアと対比するように薄く頬を染めて語る咲夜。完全で瀟洒な
メイドにしては珍しく気もそぞろな様子。その視線は霖之助に向けられているように霊夢
には思えた。
 駄目だ、こいつらでは話にならない。
 どうせ暇つぶしに来ただけの連中だ。無視してしまえばいい。要は霖之助の奇行が問題
なのだから。
 霊夢は霖之助に向き直り、
「りーんーのーすーけーさーん? 説明して貰いましょうか」
「説明と言われてもだね、僕は僕のすべきことを為しているだけだよ。そうだな、生きる
為に必要なことだと言っていい」
「何よその言い草は! じゃあ私とのことは遊びだったの!?」
「そうだぜ香霖! 朝方に言った私のことを離したくないって台詞は嘘だったのか!?」
 ぴたりと動きが止まる霊夢と魔理沙。
「何よ、さっきは様子がおかしいと思ったけどやっぱりあんた……」
「昨日は様子がおかしいと思っていたがやっぱりお前……」
 二人の腕が同時に伸びる。互いが互いの頬を抓り頬を伸ばしていく。
 そんな二人を無視するように通り過ぎ、霖之助はレミリアの前に立った。
「君はまだだったね。ちょっと失礼するよ」
「あら、私も対象に入っていたの? 貴方も中々良い度胸をしているのね」
 レミリアの瞳が妖しく光る。危険な兆候だったが、一分の躊躇もせずに霖之助はレミリ
アをその胸の中に掻き抱いた。
 霊夢に止める暇があればこそ。魔理沙といがみ合いをしていた彼女はその光景を呆然と
眺めているしかなかった。
 次の瞬間、霖之助の体がまるで落雷に撃たれたかのように大きく震えた。
「ちょっとレミリアあんた……!」
 言葉を紡ぎ終える前に霖之助が口を開いた。
「漸く僕に必要な人が誰だかわかったよ……。レミリア、不躾なお願いになってしまけれ
ど、落ち着いて聞いて欲しい」
 腕を離した霖之助はまるで傅くように膝を付き、情熱に燃える視線をレミリアに向けた。
 俄かに店内がざわつき始める。事態の推移に気が付いた射命丸は何故かマイクを片手に
机の上に登っていた。
「僕と一緒に暮らして欲しい。今の僕には君以上に素晴らしい人は考えられないんだ」
「おおーっと、とうとう出ました! 森近氏のプロポーズだぁー!」
 ハウリングとそれに負けない射命丸の大声が虚しく香霖堂に響き渡った。 

                            *

「本当に宜しかったのですか、お嬢様?」
「何のことかしら?」
 椅子に座る霖之助の膝の上、それが最近のレミリアの定位置となりつつある。霖之助は
というと、今は安らかな表情で午睡を取っている。相変わらず商売意識の低い店主だが、
今は完全で瀟洒なメイドもレミリアに付き従って住み込んでいる。元々の客の出入りの無
さも相俟って全く問題は生じていない。
「いえ、店主のこともそうですが、紅魔館もパチュリー様に任せっきりですし……」
「別に問題はないでしょう? フランはパチェが抑えてくれるし、門番も置いてきたこと
だし」
「しかし、ですね」
「ああもう、五月蝿いわよ咲夜。夏の間中紅魔館に引きこもりっきり何て私は嫌よ。こう
して香霖堂を乗っ取ればその内霊夢や魔理沙が押しかけてくるわ。そうすれば夏の間くら
いは暇が潰せるってものよ」
 レミリアが霖之助の提案に乗ったのは本当にただの暇潰しでしかなかった。霊夢たちに
ちょっかいを出す良い口実になるというだけ。問題があれば血を吸って僕にしてしまえば
いい、そんな風に考えていた。
 しかし事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。今回の騒動の顛末は口にする
のも馬鹿らしい程下らないものだった。それこそ血を吸う気力もなくなるほどに。

 西の遥か彼方、それも気の遠くなるほどの昔の話。外気が体温よりも高いような熱帯で
は、人間を使って涼を取る習慣があったそうだ。普通なら温かいと感じるはずの体温でさ
えも、そのような地帯では冷ややかに感じたのだろう。
 そう、まさに現在の幻想郷のような場所だったならば。
 チルノや半霊では凍傷にかかってしまうし、普通の人間だと服を着ている分効果が薄れ
てしまう。そこで最も都合が良かったのが、元々体温の低い吸血鬼であるレミリアだった
というわけだ。

 以上がレミリアという冷却剤を得て通常の思考に戻った霖之助の供述だ。熱で暴走した
思考が生んだ痴態だ、と恥じてはいたがそれでもレミリアを離そうとはしなかった。よっ
ぽどレミリアの"具合"が良いらしい。
 霖之助の顔を見上げると、余りにも幸せそうな顔で寝ている。事実を知られたら幻想郷
中の少女たちから数十発の殴打を食らっても仕方がないことをしておきながら、よくもこ
れほど無邪気に眠れるものだ。
「ふふっ……」
 レミリアの中に悪戯心が湧いてくる。自分を抱えている腕を退かし、男と向き合うよう
に姿勢を変える。
 そして喉許に口を近づけ――
「お、お嬢様っ!?」
「さっきから五月蝿いわよ咲夜。別に血を吸おうだなんて思っていないわ」
 レミリアの癇に障ったことは霖之助が自分を詰まらない理由で選んだということだけで
はない。同居するようになってから此方、文字通り四六時中一緒にいるのだ。当然、布団
も同じくしている。住居の狭さから他にスペースがないという理由もあり、咲夜、レミリ
ア、霖之助と川の字になって毎日眠りに付いていた。
 物理的な距離の接近は心理的な距離を近づける、とは誰の言葉だっただろうか。これだ
けの美少女と寝食を共にしているというのに、霖之助はというと全く男性的な反応を見せ
ないのだ。まるで本当に自分を抱き枕の一種としか思っていないかのように。
「……っ、うぅ……あぁ……」
 肌を突き破る寸前まで牙を突き立てる。すると霖之助は呻き声を上げ、レミリアの気持
ちを落ち着かせる。赤くなった肌にゆっくりと舌を這わせるとまた呻き声が一つ。これを
気の済むまで繰り返す。彼が眠っている間のレミリアのストレス解消方だった。
 これの所為で睡眠が浅くなり、霖之助は毎日昼寝を繰り返す。昼でも夜でもレミリアの
することは変わらないので、寝られないことには変わりは無い。
「お嬢様……もしかして本気だったんですか?」
 一瞬、何のことを言われたのかわからず固まってしまう。だが直ぐにそれが目の前の男
のことだと気が付いた。
「ふっ、まさか。この男は霊夢たちを誘うだけの餌よ。餌に感情移入する奴はいないわ」
 そうよ、私がこんな男に固執するわけないじゃない。全く咲夜は何を言っているんだか。
 自らの苛立ちが何に起因するかを考えず、レミリアはそう思い込もうとした。
「でも、そうね……。霊夢たちが来るまでにこの男が私の虜になっていたら……それはそ
れで面白い展開になるかもしれないわね」
 顔を赤らめた自らの従者が見つめる前で、再びレミリアは霖之助の喉元に唇を付けた。
 男の心を搦め捕るように、優しく、甘美な苦痛を与えるために。









●後書き
コメディのつもりで書き始めたのに、結局何が何だかよくわからないもに成り果ててしまいました。
前振りが長すぎて最後に上手く落とせなかったのが敗因でしょうか。

茹っているのは自分の頭の方だったみたいです、本当にありがとうございました。
posted by sei at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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