2008年07月21日

変わらない自分、変われない関係

魔理沙は盗品を自慢しに香霖堂に立ち寄った。

登場キャラ
霖之助 魔理沙
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 兎が大事そうに持ってたから思わず取ってきたぜ、といって魔理沙が持ってきた瓶の中
身を見て僕は大仰に溜息を付いた。今回はまた余りにも大それた盗みをしたものである。
「これは僕から返しておくよ。魔理沙もきちんと永遠亭の人たちに謝りに行きなさい」
「何だ、そんなに凄いものなのか?」
 馬耳東風といった様子で魔理沙は僕の説教を僕の聞き流し、瓶の中身を覗き込む。
「これは蓬莱の薬。所謂、不老不死の妙薬という奴だ」
「へー、こんなものがね。ちょっとだけ飲んでみるか」
 瓶を傾けようとした魔理沙の手を掴む。これは本格的に説教をする必要がありそうだ。
「不老不死になることがどれだけ恐ろしいことかわかっていないようだね」
「何が恐ろしいっていうんだ? 怖いものなしじゃないか。時間が無限にあれば魔法の研
究だって捗るだろうしな」
「無限なんて存在しないし、不老不死何てものも存在しない」
「さっき自分で言った事を忘れたのか? これは蓬莱の薬なんだろ?」
 呆れ顔の魔理沙を無視して話を続ける。
「ああそうだ。でも不老不死だ何てのは建前で本当の効果は全くの別物だ」
 僕の真面目な口調に少しは事実の恐ろしさが伝わったのか、珍しく神妙な態度で聞き返
してくる。
「だったらどんな効果があるっていうんだ?」
「この薬はだね、対象物を形而下の存在から形而上へと変化させる為の薬なのさ」
「……? よくわからないぜ。そりゃ不老不死になったら少しは人間とは違うかもしれな
いが、そんなに変わったようには見えないぜ?」
「いや、大違いだよ。彼女たちが普通に見えるのは幻想郷の中にいるからさ」
 彼女たちを知っている分だけ魔理沙には実感がないのかもしれない。それでも不老不死
などと言うものが幻想でしかないことはわかるだろう。
 変わらない姿でいつまでもあり続けるものなど存在しないのだ。故に蓬莱の薬を飲んだ
者はその矛盾を解消するために情報としてしか存在を是認されず、変化をすることもなく、
未来永劫そこにあり続けることしか出来ない。それは"現象"と呼ぶ他ないものである。人
の軛から解き放たれて現象に堕す行為、それが不老不死の正体なのだ。
 未来永劫変わることなく存在し続ける、そんなものは刑罰に等しい。生きながら無間地
獄に繋がられているのと何が違うと言うのだろうか。
 恐るべき事実に畏怖を覚えて鼻白むかと思った魔理沙だったが、彼女は逆に不敵に笑っ
てみせた。
「へっ、そんな言葉遊びで怯む私じゃないぜ。何時だって変わらないんだ。例え妖怪にな
っても不老不死になっても私は私――霧雨魔理沙だ」
 彼女の台詞に僕は目を見開いた。
 そうだったな、魔理沙はこういう娘だった。確かに彼女は変わらない。その根拠のない
自信も、憎たらしげでありながらどこか爽やかで愛らしい笑顔も。
「そうだな、僕も魔理沙と一緒だったら変わらずにいるのもいいかもしれない」
 あんな笑顔をみてしまったからだろう。僕は思わず口にしていた。
「それは愛の告白と受け取っていいんだな?」
 悪戯に笑う魔理沙の言葉に僕は心を打たれた。今日は彼女には驚かされることが多い。
どうやって返答するのか迷ったが、直球で返すのが最善だと思えた。
「ああ、そう受け取って貰って構わないよ」
 何故か硬直してしまった魔理沙に僕は笑みを返すのだった。

                            *

 それにしても生の牢獄に繋がれることを愛に喩えるなどとは魔理沙も中々諧謔というも
のを理解してきたみたいだ。それとも"大人"になってきた、ということなのだろうか。
 しかし僕の返答が面白くなかったのか、香霖の冗談はつまらないぜ、と言って魔理沙は
すぐに帰ってしまった。夕陽に照らされて赤く染まった彼女の表情は終始俯いていて伺え
なかったが、それほどつまらなかったのだろうか。
 魔理沙に駄目出しされるとは。僕もまだまだ精進しなくてはならない。

                            *

 次の日何故か借りてきた猫のように大人しくなっていた魔理沙を連れて永遠亭に向かっ
た。幻想郷中を探し回っているらしく永琳や鈴仙、てゐはおらず兎たちと輝夜しかいなかっ
たが、どうにか彼女にだけは頭を下げさせた。
 魔理沙の一言目が「落し物を届けに来てやったぜ」だったのには閉口したが、輝夜はけ
たけたと笑うばかりで怒ることはしなかった。
 その後の数日間は大人しい魔理沙が続き、まるで昔に戻ったかのような懐かしい日々を
過ごしたことはよく覚えている。
 しかし元の魔理沙に戻る直前に聞いた台詞、
「やっぱ香霖は香霖か」
 溜息と共に呟かれたその言葉の意味は未だによくわからない。









●後書き
多分四作目の作品。
魔理沙は一番好きなキャラなんですが、一番書き難いキャラでもあります。動かす分には楽なんでちょくちょく登場させるんですけどね。
原作で下手に距離が近い所為で、ちょっとやそっとのことじゃ事件にならないし、逆に霖之助が魔理沙を追うという構図の逆転を図ると、
どう見ても犯罪です、本当にありがとうございました。
状態になってしまいますし。
一番の問題は「報われない恋」こそが魔理沙の最も映えるテーマである、ということなんですけどね。
いつか今の状態から脱却してストレートな魔理霖を書けたらいいなあ。
posted by sei at 00:56| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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