2008年07月11日

月と蛍に繋がれて

ルナチャイルドは蛍光灯を手に夜の森を歩く。

登場キャラ
ルナチャイルド 霖之助 サニーミルク スターサファイア
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 未だ師走には遠いというのに今日は酷く風が冷たい。
 吹きすさぶ木枯らしにサニーとスターは御機嫌斜めだったが、ルナだけは笑みを浮かべ
て歩いていた。
 空気の澄んだ冬の夜空には満天の星が浮かんでいる。そして一際大きく、妖しく光る満
月がルナに力を与えていた。元気でないはずがない。
 しかし残りの二人の妖精は夜の散策が気に入らなかったのか、すぐに帰ってしまった。
「全くあの二人は……」
 と憤って見るが、ルナとて寒くないわけではない。しかも夜の森を一人歩きしていると
いう状況によって精神的にも冷え冷えとしていた。
 今日と言う日が十五夜でなかったならば、ルナも既に引き返していただろう。しかし月
の魔力に誘われるように、彼女は一人で森の奥へと突き進んで行ったのだった。
 今日の彼女には一つの目標があった。面白そうなものを拾うという日常を飛び越えて、
外の世界の道具である『蛍光灯』を光らせるという崇高な目的だ。
 その為にはこの場所ではいけない。月の妖精である彼女が蛍光灯を光らせる方法とは一
つしかない。
 ――もっと月がよく見える場所にいかなくちゃ
 寒風をものともせず、一人ルナは森を歩いていくのだった。

 散歩、などというものは家中で出来る行為には一段劣る。そんな持論を持っているほど
引きこもりがちな男が一人。二つ名を『動かない古道具屋』という彼だったが、余りの月
の美しさに誘われて思わず外に飛び出していた。
 夜の森には危険が多いが、深くに入らなければ問題ないだろう。そう思いながらも中々
良い月見場所が見つからず、次第に奥まった場所まで入り込んでしまった。
 内心参りながらもここまできたら引く事も出来ず、霖之助はただ空を見上げて歩くのみ
だ。
「おっ、これは……」
 魔法の森にあって有り得ないほど開けた場所に辿り着いた。
 それは地上だけでなく空にまで及んでおり、その場所だけは妖しくうねった木々が天を
遮っていない。まるでそこが舞台の上であるかのように月光が広場を照らしているのだ。
 暫くその幻想的な光景を呆然と見上げていたのだが、冷風によって現実に引き戻されて
しまう。衣服を擦り合わせて寒さを凌ぐのも限界で、そろそろ燃料を追加しないと凍えて
しまいそうだ。
 広場の中央で月見酒をやろうと思い足を向けると、
「おや、こんな時間に何をしているんだい?」
 そこには既に先客がいた。
「あら香霖堂の店主じゃない。こんばんわ」
「ああ、こんばんわ。今日はいい夜だね。思わず深夜に出歩いてしまうくらいに」
 月の妖精ルナチャイルドは霖之助に目もくれずに夢中で何かを弄っていた。
「それは……蛍光灯だね。まだ光らせようとしていたのか」
 半ば呆れたような口調の霖之助にルナは表情を曇らせた。
「いつまで経っても光らないから月の力を借りようと思って……でもダメだわ。月の光は
最も優れている筈なのに…」
 霖之助にとってはそれは規定された未来に他ならない。蛍光灯を光らせるためには外の
世界の道具が別に必要なのは明白なのだ。
 しかしその事実を改めて告げる気分にはならなかった。
 子供のようにはしゃぎまわっていた妖精が無慈悲な現実に打ちのめされている。それに
追い討ちをかけるような真似など出来るはずもない。
 その姿には遠き日の幼き少女の姿とどこか重ねて見てしまう。普段元気な奴ほど落ち込
んだ時に居た堪れなくなるのは十分に経験済みなのだ。あのような顔は何度も見たいもの
ではない。
 さて、どうしたものかと思案する。妖精の喜びそうなことなど思いつかないし、蛍光灯
を光らせるのも今の彼には無理なことだった。
 だからその行動は無意識に近いものだった。
「えっ……?」
 呆然とするルナの頭を霖之助は優しく撫でていた。昔あの少女が機嫌を損ねた時にいつ
もやっていたことを思い出しながら、丁寧に柔らかい髪を梳いていく。
「う、あ……あんた何をやって……わ、あわわわっ」
 咄嗟に霖之助の手を振り払おうとするルナだったが、蛍光灯を片手に無理な動作をした
ために大きくバランスを崩した。
「おっと、危ないな。気をつけないといけないよ」
「えっ――ああっ!」
 深夜の森の静寂を切り裂くルナの金切り声に、森の動物が講義をするようにざわめいた。

                            *

 翌日、いつものように遅くに起き出したサニーが居間にやってくる。
 ルナは全員が揃ったところで昨夜の不思議な出来事を話し始めた。
「で、そのとき蛍光灯が急に光りだしたの?」
 と紅茶を飲みながらどうでも良いような様子で聞くスター。どうやら余り信じていない
様子である。
「そう、でも、それっきりまた光らなくなったのよね……」
 そんなスターの様子も気にしないで、一人ルナは肩を落としていた。絶対に出来ない、
とわかりきっていることより、時に僅かな希望を見出した場合の方が落胆は大きくなるも
のなのだ。
「あの店主と触れ合った瞬間輝きだした蛍光灯かぁ……あっ、もしかして!?」
 何やら思いついた様子で両手を叩くサニー。いつも何も考えていないような彼女だが、
不思議と人望はあり三人の中のリーダー格だ。ルナも期待してはいけないと思いつつも、
念じるようにしてサニーに向き直る。
「何、光らせ方がわかったの?」
「ええ、私の考えではこうよ!」
 胸を叩いてサニーは力強く叫ぶ。
「二人の愛の力が蛍光灯を光らせたに違いないわ!」
 何故か瞳を輝かせながら力説するサニーに、我関せずと紅茶を飲んでいたスターも話に
加わる。
「なるほど。確かに愛の力は何よりも強いというからね」
「な、何いってるのよ! あんな慳貪な古道具屋なんか相手にするわけないでしょ!」 
「といいながら顔が赤くなってるわよ、ルナ?」
「なってないわよ!」
 姿見に映る自身の顔は林檎のように真紅に染まっていたが、これは怒りなのだとルナは
抗弁する。
 しかしそんな言い訳は二人に通用するはずもない。からかうとなればとことんからかう
のが妖精の流儀なのだ。
「もう一度蛍光灯を光らせる為にルナと店主をラブラブにしたてあげるわよ!」
「おー!」
 意気込むサニーとスターに、ルナは有無を言う暇も無く香霖堂へと引きずられていくの
だった。

                            *

 真っ暗な室内の中央に三人の妖精が固まっていた。その中央に鎮座坐しているのは件の
蛍光灯である。
「よし、準備はいいわね?」
「いつでもオーケーよ」
「じゃあ、一、二の三っ!」
 サニーの持っている蛍光灯にルナの手が触れる。瞬間屋内に広がる白色の光。それは彼
女たちには幻想的な光景として映った。
 光は直ぐに消えてしまったが、三人は暗闇の中顔を見合わせると、
『おおー』
 何故か全員の拍手が巻き起こった。誰一人として原理をわかっていないのだから仕様が
無いことなのかもしれないが。
「本当に布と擦り合わせた手で触るだけで光るのね」
「あの店主は"せいでんき"とか"ほーくすびー"とかわけのわからないことを言っていたけ
ど、要はこれも魔法なのよね」
「でも布にこんな魔力が宿る何て聞いたことないけどね」
 長々とした霖之助の説明など誰も覚えてやしない。ただ蛍光灯を光らせる方法を知った
だけで彼女たちは十分なのだ。
「それにしても誰よ、愛の力だ何て言い出したのは」
「サニー以外に誰がそんなこと言うのよ」
「スターも言ってだけどね……」
「何よルナ、そんな暗い顔して。折角蛍光灯が光ったんだからもっと喜びましょうよ」
「いや、嬉しいことは嬉しいんだけどさ……」
 不思議そうな顔をする二人をよそにルナは小さく溜息を付いた。
 二人に祭り上げられて香霖堂に連れて行かれたことを思い出す。あの事件を彼なりに調
べていたみたいで、理屈はともかく実際に蛍光灯を光らせる方法を彼は発見していた。当
然、それは愛の力でも何でもなかった。
 どうにもあれ以来心にぽっかりと穴が開いてしまった気がしてならない。どこかに置い
てくるはずだった気持ちが行き場所に困っているかのような。
 私はもしかしたら彼のことが――
「ってそんなわけないでしょ!」
「わっ、びっくりした。何よ急に」
「何でもないわよ。それよりもう一回蛍光灯を光らせましょ。次はもっと沢山光るかもし
れないしね」
「いいわね、沢山擦ればきっと長い間光るようになるわ」
 先程思わず漏れた言葉は音を消したから誰にも聞かれていないはず。

 ――好き、なのかも

 聞かれていたら何日もからかわれ続けるだろう。
 静電気を起こす作業に夢中になっている二人の顔を盗み見ても特に変わった様子はない。
 安堵したルナは二人にならって手を擦りあわすことにした。
 一先ず気持ちを棚上げすることにして。

 結局蛍光灯は長く灯りを点すことは無く、直ぐに飽きられて忘れ去られていった。
 ルナの気持ちも棚上げされたままどこかへ行ってしまったようだ。
 そんな彼女の思い込みが正されるまでには少々の時間を置くことになる。
 十六夜だけでなく十五夜の散策が増えた事実をスターに突きつけられるその日まで。









●後書き
前作と同じく職人によるプロットを衝動的にSSに纏めたものです。
三月精は公式で霖之助と絡んでいる数少ないキャラクターなのですが、何故か全くSSというのが自分の頭になかったので書いていて新鮮でした。相変わらず睡眠不ry
ただ非常に動かすのが難しい三人なので、次も書くかといえば……ですけれど。
posted by sei at 23:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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